日本に侵入したオオモンシロチョウ
アカツメクサで吸蜜するオオモンシロチョウ♂(北海道岩内町)<禁無断転載>
オオモンシロチョウ Pieris brassicae L. はヨーロッパではキャベツなどの害虫としてよく知られているチョウです。
一見、おなじキャベツの害虫のモンシロチョウ Artogeia rapae L.(またはPieris rapae L.)と似ていますので、同じPieris属に分類されることも多いのですが、形態や習性等がかなり異なっていますので、私はモンシロチョウとオオモンシロチョウを別属とする立場をとっています。なお、オオモンシロチョウの英名にはふつうThe Large Whiteを、モンシロチョウの英名にはThe Small White(またはThe Cabbedge White)が使われています。
モンシロチョウもオオモンシロチョウも本来の分布域は、ヨーロッパから東アジアにかけてのユーラシア大陸(動物地理区では旧北区)ですが、オオモンシロチョウの方が分布が狭く、中国東北部や沿海州、日本などの東アジア地域にはごく最近まで分布していませんでした。
ところが、今年(1996年)6月8日に北海道共和町で1♂が採集されていたことがわかり、その後日本海側を中心とする北海道各地(稚内〜道南)および青森県北部(津軽半島、下北半島)で、採集されたり発生が確認されています。私自身も、本年(1996年)8月下旬〜9月上旬にかけて、北海道および青森県で調査を行いました。
当初は、野菜等に蛹などが付着して侵入した可能性が高いと考えられましたが、2年ほど前からロシア沿海州にオオモンシロチョウが侵入して昨年(1995年)には数多くの個体が発生していたことがわかり、ロシア沿海州から直接飛来したという説が有力になりつつあります。ヨーロッパでは移動力が強いチョウとして知られていますし、今回北海道や青森県で採集された個体やロシア沿海州の個体の特徴はいずれもヨーロッパ産のオオモンシロチョウの特徴と一致するため(ヒマラヤ〜中国南部の高地にいる亜種とは異なる)、私も直接または間接に(例えば船上を経由して)沿海州から飛来した可能性の方が高いと今は考えています。
青森県では防除対策がとられているので、分布の拡大は比較的抑えられており、特に津軽半島部ではオオモンシロチョウはほとんど見ることができませんが、下北半島北部には確実に土着しており、今年(1998年)は菜の花畑で有名な横浜町でも確認しました。
一方、北海道では防除対策は全くといってよいほどとられていないため、札幌〜積丹半島、渡島半島にかけての地域では、市街地を中心にどこでも見られるチョウになりつつあります。また、浜益村〜初山別村にかけての日本海側、室蘭市〜門別町にかけての地域でも確実に発生を続けています。稚内市では1996年以来引き続いて発生しているほか、今年は浜頓別町でも確認されています。内陸部では、1997年に旭川市などで確認されたのに続き、今年は名寄市や南富良野町でも見つかったほか、丸瀬布町や弟子屈町などでも採れているそうです。
さらに、本年9月23日には、長崎県対馬の上県町でも1♀が採集されました。対馬では発生している可能性もあり、今後の動向が注目されます。
- このページは、農業関係者ならびにオオモンシロチョウに興味をもたれた方に最新の情報を提供します。なお、1996年の発生経過およびオオモンシロチョウの生態等については、日本鱗翅学会誌「やどりが169号」(1997年5月発行)に詳しく掲載されていますので併せてご利用下さい。
やどりが169号の別刷りを希望される方は、今日の一言(1997年6月9日)をご覧ください。
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