<第13号:10/30 2003>

眼科 アイケア名古屋

院長  安藤 文隆

監修:鹿児島大学名誉教授  大庭 紀雄

 

臨床眼科学会(名古屋市)2003/10/31(金)午前 「FRANK先生と語る集い」

眼科学論文の現状と国際比較.日本はランキング第3位である.

医学の新知識は学術講演会はじめさまざまな機会に得られるが、高信頼度の情報はレフェリー制度がととのった学術雑誌に依存することは従前と変わらない.研究成果の国際貢献が要請される昨今、日本から海外に送られる英文論文は日増しに目立っている.我が国の眼科は、諸外国と比較してどうだろうか、特色はあるのかといったことを調べてみた.米国国立医学図書館が公開している世界最大の医学論文データベースMedlineをインターネット(200310月)で利用した.impact factorが算出されている眼科雑誌33誌について、「Publication Type」を参照して1991年から2002年までの12年間に発表されたjournal article(英語原著論文)、review(総説論文)、randomized controlled trialRTC)を検索,FileMakerにダウンロードして分析した.

1.眼科論文の国別生産量

最近の12年間に発表された論文総数は、47,580件である.国別生産量は米国が世界の44.5%21,162件)を占めて断然トップである.英国9.9%、日本8.6%、ドイツ8.6%、豪州3.4%、カナダ3.5%、イタリー、オランダ、スエーデン、イスラエルの順となっている.これら上位10か国で85%ほどを占める.アジアではトルコ12位、中国(香港を含む)17位、韓国20位と健闘している(上図 左).

 12年間の推移をみると、日本、トルコ、インド、中国、韓国がそれぞれシェアを伸ばしている.日本は2002年現在第3位であるが,英国を抜いて第2位にランクを上げる勢いである.欧州の多くの国は横ばいだ.一方、米国と英国は1位と2位を堅持してきた.だが,シェアは少しずつ減少している.中東やアジアの諸国の生産性が向上したことをうかがわせる.

2.論文の質、臨床研究、論文生産の対人口比・対GDP

 1)各国発表論文の質

論文の質を評価する指標として便宜的にimpact factorを使用して、一貫して上位にランクされてきた10誌に掲載された論文の割合を国別に求めた(上図 右). USA、オランダ、フランス、英国、オーストリアの各国からは50%以上がtop-10 journalに発表されている.ドイツ、イスラエル、カナダ、日本、韓国、スイス、中国、スペインの順に40-50%である.日本の良質論文の割合は48.6%で,ランキングは9位である.日本とともに韓国や中国も健闘している.

 2)臨床研究 RCT

疾病の治療に直結するRCTrandamized controlled trial、ランダム化盲検比較試験) は研究評価の大切な指標になる. RCTは過去12年間に2176件(論文全体の3.93%)が報告されている.国際比較すると、米国825件、英国235件、ドイツ110件、イタリー110件、日本96件、カナダ77件の順になっている.ここでも米国が抜きんでている.一方,発表論文全体に占めるRCTの割合をみると豪州12..2%、インド10..6%.トルコ9.8%.イタリー8.9%、スウェーデン7.6%、フィンランド6.9%が上位になる.こうした指標では英国13位、米国17位、日本20位となるが、これら大国からのRCTは一般論文の陰にかくれてしまう.

 3)論文生産量と経済

経済生産指標としてのGDP1995年度)に対する論文生産量をみてみた.国別ランキングは、イスラエル、豪州、英国、フィンランド、トルコ、スウェーデン、米国の順である.経済的には小さな国でも論文生産は活発であることを示している.一方、日本は20位であり経済大国に見合った生産量とはいえない.

 4)論文生産量と人口

人口(1995年度)に対する論文生産量をみてみた.国別ランキングは、フランス、イスラエル、豪州、フィンランド、スウェーデン、英国、米国、オランダの順である.小国々でも論文生産は活発であることを示している.一方、人口指標で大国に位置する日本の対人口比ランキングは17位であり、人口に見合った生産量とはいえない.

 以上の評価から読み取れるのは、眼科論文の生産量の絶対数でみると大きな人口をかかえ経済力が豊かな先進諸国が当然のごとく優位だが、北欧諸国はじめ小国といえども大国に引けをとらない成果をあげていることである.

3.日本からの論文発表

日本の眼科からの国際発表は生産量で第3位である.すなわち、1991年から2002年までの12年間に合計4,105件の英文原著論文が発表された.年度別にみると年を追うごとに増加して、1991-92年の200件前後から経年的に増加して2000年には500件近くになった(右図).

 主要な掲載誌(略称)をみると、Jpn J Ophthalmol (JJO)789件で約2割を占めている.次いでInvest Ophth Vis Sci 402, Am J Ophthalmol 364, Ophthalmologica 253, Curr Eye Res 242, Graef Arch Clin Exp Ophthalmol 240, Brit J Ophthalmol 226, J Cataract Refract Surg 195, Ophthalmic Res 195, Exp Eye Res 161, Vision Res 133, Ophthalmology 130, Cornea 121, Arch Ophthalmol 110, Retina 95, Acta Ophthalmol Scand 92の順である.すなわち、約8割の論文が米国と欧州で発行される雑誌に送付されている.日本からの論文のシェアが高い雑誌は、Jpn J Ophthalmol (786/926 = 84.9%)は別格として、Ophthalmic Res (195/705 = 27.7%), Ophthalmologica (253/962 = 26.3%), Graef Arch Clin Exp Ophthalmol (240/1668 = 14.4%), Curr Eye Res (242/1789 = 13.5%), Am J Ophthalmol (364/3279 = 11.1%) である.こうした雑誌では日本からの論文が1?3割を占めて,日本からの論文が雑誌の刊行とレベル維持に無視できない程度に貢献しているにちがいない.

4.論文の著者数

医学生物学論文の著者数が増加している.眼科ではどうであろうか.総説論文とstudy groupによるRCTを除いて,multiauthored publicationと称される著者数7名以上の論文が一般原著に占める割合を求めた.各国のデータを平均すると9.0 がこうしたmultiauthored paperである.国別にみると、平均よりも有意に高いのはオーストリア(17.3%)、日本(17.2%)、イタリー(14.1%)、フランス(13.1%)、トルコ(11.5%)である.逆に、有意に低いのは英国(6.0%)、イスラエル(5.0%)、豪州(4.8%)、カナダ(4.3%)、デンマーク(3.9%)、フィンランド(3.9%)、スウェーデン(2.2%)である.なお,論文当たりの平均著者数にもregional variationがはっきりしている.

日本は論文生産量を誇る国の中ではmultiauthored paperの割合が17.2%と際立って高い.このことをやや詳しくみると、予想外の現象が見つかった(左図).すなわち,JJOに掲載された論文では12.7%、impact factorが上位の10誌に掲載された論文では22.5%、impact factorが低い雑誌に掲載された論文では18.2%であった.論文当たりの著者数も平均をみると,掲載誌のカテゴリーの間に有意差がみられる.こうした有意の変動にはしかるべき要因や背景があるに違いないが、同じ国から発表される同じ研究分野の論文の著者数が掲載先に依存してかくも変化するというのは、驚くべき現象にちがいない.ちなみに,LancetNew England Journalといった主導的雑誌ではauthorshipのあるべき姿について盛んに論じられている.

当地開催の臨床眼科学会で依頼された講演の資料を載せました.ご参考になれば幸甚です(大庭 紀雄)