1000回目の逢瀬

作 山下泰昌


1HIT


 今日、ホームページを立ち上げた。まだTOPページと掲示板しか出来ていな

い。試しに自分で自分のHPを訪れてみる。

 アクセスカウンターは「1」を記録している。当たり前だ。

 でも、何だか嬉しくなる。誰かにこのことを話したくなる。明日、大学に行っ

たら、勝俣とあかねに教えてやろう。

 勝俣は僕の悪友。そしてあかねは僕の彼女だ。

 あかねのフルネームは安藤あかね。彼女と知り合ったのは1年前の大学の新入

生ガイダンスの時で、速攻一目惚れした僕はその1週間後には告白し、そして

付き合うことになった。あかねは活発そうな外見とは逆におとなしい性格で、

行動派でおしゃべりな僕とは意外と性格が合った。

 だが、趣味は全然合わなかった。僕の趣味はドライブとゲームだが、あかねの

趣味は水泳と作曲だった。僕はカナヅチで泳げないし、音楽的素養が全くない

ので誰かのピアノの演奏会など出た日にはすぐに眠くなってしまう。

 あかねはあかねで、車の助手席に乗るとすぐ眠くなる質だし、ゲームみたいな

やかましい電子音を聞いていると頭が痛くなるという。

 というわけで僕らは今までお互いの趣味には全くの無干渉だった。

2HIT

 HPは僕のごくごく個人的なHPになる予定だ。イラストが描けたり、小説が

書ければ、その作品を発表するという、いくらか有意義なページになるのだろ

うが、そういう創作系の趣味がない僕はとりあえず近況報告くらいしか発信す

ることがない。

 今回、日記コーナーを敷設した。

 今日大学に行った時、自分のHPが出来たことをあかねに話した。あかねは

 「ふーん」

と相づちをうったきり興味なさそうな顔で黒板を見ていた。これもあかねの趣味

の対象外だったらしい。あかねとの付き合いにはなんの不満もない。これ以上

性格の合った女性はこの先も現れないのじゃないかなんて、思ったりもしてい

る。でも最近、何か淋しく感じることがある。デートの時なんかに趣味の話で

熱く盛り上がれたらもっと楽しいんじゃないかな、と。

 ま、これは無い物ねだりの一種だと自分でも思っているが。

4HIT

 僕以外の誰かがHPに訪れたらしい。それが誰だか僕は知っている。友人の

勝俣だ。今日、大学に行ったときHPアドレスを教えて来た。

 ひょっとすると書き込みがあるかと思い、掲示板を見てみる。

 案の定、あった。

 「発信者 KATU

 やっほー!早速、来てみたぜ。だけど、つまんねーHPだな。梅崎の趣味の

ゲームのページにでもすればいいのに。そんじゃ」

 なるほど。考えもしなかった。そっちの方向で今度ページを作ってみよう。

 勝俣にはレスを付けておく。

 「発信者 うめ

 >つまんねーHP

 余計なお世話だ。でもゲームのページってのはナイスアイデア。いただき

っ!」

6HIT

 僕の他に1人来ているが、当然のごとくそれは勝俣であろう。僕はHP更新が

上手くいっているかどうかを確かめる為に、今日は来た。

 アーケードゲームの攻略法や日々の奮闘記を記載するゲームコーナーを新設し

たからだ。

 うん。更新は失敗していなかった。

 一応、掲示板も覗いてみる。今回、勝俣は書き込まなかったようだ。

 あかねと電話した。

 「HPに早速、勝俣のやつがきたぜ」

 と言ったら、

 「そう」

 と案の定、つれない返事だった。あかねはこの手の電子系の話が苦手なのだ。

 もうHPの話題をするのはやめよう。僕らは学校の試験についての話題に話

を移し、楽しい時間を過ごした。

9HIT

 僕の他に2人来ている。だが、それが誰だか僕には分かる。勝俣と清田だ。

 清田はバイト仲間で今日バイトの時に教えてきた。相変わらずアクセスカウン

ーを見ただけで来訪者が分かるこの状況は悲しいものがあるが、それももうし

ばらくの辛抱だ。とりあえず、今日2つの検索ページに「ゲーム」のジャンル

で登録してきた。

 一応、掲示板を覗いて見る。

 「発信者 KATU

 ひゃっほー。良くなってきたじゃん。HP。相変わらずディープなネタよの

う。>ゲーム攻略法 どうしてこんなの分かるの?」

 「発信者 チャイム

 うめちゃん。ちは。HP開設おめでとう。今回書いてあったゲームは今一、

俺、好かんのです。ヴァーチャ・サッカーなんかはやりませんか?あれ激難。

それでは、また」

 チャイムは清田のハンドルネームらしい。由来は知らないが。

 2人には一応、それなりなレスを付けておく。

13HIT

 HIT数が前回より4増えている。ってことは僕、勝俣、清田の3人以外の

誰かが見たということだろうか。それとも勝俣か清田のどちらかが2回この

HPに訪れたのであろうか。

 掲示板をチェックしてみる。

 「発信者 チャイム

 うめちゃん。ちは。すまん。あさってのバイト、用事が出来て行けなくなっ

た。代わりに出てもらえますか?」

本当に掲示板に使ってやがる。だが、これが一番有用な使い方なのだろう。

 僕は「OK」とレスを付けておいた。

 日課のあかねとの長電話。

 この話はやめにしようと思いつつも、もしかして、と思って一応聞いてみるこ

とにした。

 「あかね、僕のHP見た?」

 「ううん」

 あかねは即座に否定した。そうだよな。そんなはずはない。あかねは、パソ

コンの画面が苦手で学校と仕事(バイト)以外では見たくもないと言っていた

からだ。僕はその話はそれで打ち切りにした。

 僕はあかねの趣味には干渉しないことにしている。あかねも同じく僕の趣味

には干渉をしない。これはお互い話し合ってそうしたわけではなく、暗黙の了

解みたいなものだった。特に好きでもないことに口を出しても疲れるだけだし、

逆に適当に口出されても苛つくことだと思う。お互いの趣味に口を出さないの

が長く付き合っていくコツじゃあないだろうか。

21HIT

 いきなり前回よりHIT数が増えているのには訳がある。とあるゲームHP

(HP名インパクト)に行ってそこの掲示板で書き込みをしてきたからだ。

 そこの掲示板では自分のHPアドレスも書き込めるようになっているので、

それを見たそこのHPに来た人が僕のHPにもやってきたのだろう。

 なんというか、自分のHPのカウント数が増えるってのは奇妙な気持ちだ。

 色々な人が僕のことを知ってくれている、という嬉しさと、無闇に自分の情

報が世界に広がりだしてしまっている、という怖さが同居している。

 掲示板を覗いてみるが、勝俣以外に書き込みはなかった。皆、ROMだけの

ようだ。勝俣の書き込みは大学での戯れ言の延長線上のようなものだった。

 一応、レスを付けておく。

27HIT

 昨日、あかねとデートした。ねずみがキャラクターの例のあの遊園地だ。行

くのに僕の車で行った。ウチからその遊園地まで約30分。だが乗ってわずか

5分であかねは爆睡した。車を運転する人なら分かると思うのだが、助手席で

寝られると運転している人間は非常に淋しい上に、だんだんと眠たくなるので

ある。だが、車を運転している都合上、寝るわけにはいかない。

 かなり理不尽な精神状況におかれるわけだ。

 でもあかねが車に乗ったとたんに眠るのはいつものことなので、慣れているか

ら構わないが。

31HIT

 前回、訪れたゲームHP「インパクト」と相互リンクをした。そこのHPは

僕と波長が合うのか楽しい感じがしたので、リンクを申し込んだら、即相互リ

ンクと相成った。

 当然、僕のHPにもリンクコーナーが新設された。でもリンク先が1つだけ

ってのはなんか情けない。友達がいないみたいだ。いや、別に見栄を張る訳で

はないが。これからリンク先を増やしていこうと思った。でも、無理にでは

なく自分の気に入ったところだけに心がけよう。

40HIT

 あかねと次のデートの約束をする。次の日曜日はと聞くと

 「午後からなら」

 という返事。

 なんで午前中は駄目なの?と聞くと

 「水泳に行くから」

 と返事が返ってきた。水泳が趣味と言っても、あかねは別に水泳の選手では

ない。のんびり水に浮かんでとろとろ泳いでいるのが好きなんだそうだ。水に

入ったとたん、ぶくぶくと底に沈んで行く僕にも、なんとなくそれは気持ちよ

さそうだな、というのは分かる。僕はその午後からのデートに了解した。

48HIT

 ゲームコーナーの内容を更新。ついでにコンシューマーゲームコーナーも新

設する。ゲームコーナーは前回清田から要望のあったバーチャ・サッカーの

奮闘記を付け加えた。確かにこのゲームは難しい。なかなかはまり技が見つか

らない。というかゲームデザインが悪いのかも。おっと、ここに書くことでは

ない。詳しくはゲームコーナーで。

 あと、1つ興味深いHPを見つけた。僕と好きなゲームがだいぶかぶってい

てしかも女性なのだ。「インパクト」の掲示板で知り合ってその人のHPに行

きプロフィールコーナーを見て、それが分かった。

 そこで思ったのだが、考えたら自分のHPにプロフィールコーナーがないの

に気付く。

 次回の更新時に作ろう。

 掲示板には常連の勝俣や清田の他にもう1人書き込みがあった。

 「発信者 プラーク

 うめさん。こんにちは。ウチの方もリンク張り終わったので確認して下さい。

 >ヴーチャ・サッカー

 隠しコマンドは、もう知っていますよね・・・」

 プラークとは「インパクト」HPの作成者だ。僕はまたレスを付けて置いた。

56HIT

 プロフィールコーナーを新設。ハンドルネーム、性別、生年月日、趣味、好

きなゲームくらいをずらずら書き連ねる。

 ま、これくらいの情報なら外に漏れても問題ないだろう。

 あと、この前行ったHPにリンクの申請をする。HP名は「MIND GA

ME」

 こっちからリンク張るだけなら問題ないだろう。

68HIT

 いきなりHIT数が増えていてびっくりした。掲示板を見る。

 「発信者 YO−KO

 うめさん、こんにちはー。リンクこちらからも張りましたー。うめさんの

ゲーム攻略は深すぎてタメになるのと同時に心配になります。ゲーム代、いく

らかかっていますか?」

 「発信者 ゆかい

 はじめまして。ゆかいと申します。わたしもゲーム狂ですね。ヴァーチャは

私も好きですよ。専ら「イタリア」チームを使っています。これからもよろし

く」

 YO−KOは「MIND GAME」の作成者。ゆかいは初書き込みの人だ。

 良く考えたら、リンク、知人以外では初めての書き込みのような気がする。

 僕は彼らに丁寧にレスを付けておいた。

102HIT

 遂に100HIT突破だ。感慨深げに掲示板をチェックしていたら、書き込

みがあった。

 「発信者 ヒデ 

 キリ番100踏みました。とりあえずご報告まで。あ、遅ればせながら、は

じめましてです!」

 なるほど。HPにはキリ番という風習があったのだ。今まで、他のHPに行

ってもキリ番なんて、たいして気にも掛けなかったが、こうしてみると、今ま

でROM専門だった人が掲示板に書き込んでくれる良い機会を作ってくれるツ

ールかも知れない。次回、更新時にはキリ番記録コーナーを作ることにしよう。

137HIT

 この前、「ゲーム関連リンクページ」というところを見つけたのでそこに登

録をしておいたら、カウンターの回るスピードがいきなり早くなって驚いた。

 一体35人もどういう人が読んでいるんだろうと考えると、空恐ろしくなっ

てくる。

 掲示板を覗いてみると、清田とプラークとゆかいが書き込んでくれていた。

 どうやらゆかいは常連になってくれそうだ。

143HIT

 今日は午後からあかねとデート。今話題の映画を見に行く。ホラー物の映画

だが、謎解きの要素があり、見終わっても何が何だか分からない。レストラン

であかねとああでもないこうでもないと、今見た映画について熱く語った。

 こういう風に、新しく共通の趣味を見つけていくのが良い方法かも知れない。

203HIT

 キリ番名鑑を作った。とりあえず、記録者はヒデの1人だけ。これから、ど

んどん増えるのであろうか。

 掲示板を覗く。200キリ番の報告はない。200HIT踏んだのは一見の

方だったようだ。

265HIT

 いつものように掲示板をチェックしていたらゆかいの書き込みがあった。

 「発信者 ゆかい

  うめさん、こんにちわー。私もHP作りました。良かったらご来店下さい。

 あ、あと出来たら相互リンクも。それではー」

 僕は早速、ゆかいのHPに行ってみた。ゆかいはイラストも描けるらしく、

ゲームとイラストのHPといった感じだった。プロフィールコーナーも見る。

なるほど、ゆかいは九州出身だったんだ。どうやら社会人らしい。

 そこまで読んでいて、ふっと、思った。個人HPって名刺みたいだな、と。

 今まで、さして有用な情報がない個人的HPってかなり侮っていたところが

ある。だが、最近、考え方が変わってきた。

 あちこちのHPの掲示板でいろいろな人が様々なことを書き込んでいる。

 その中で「この人はどういう人だろう?」と興味を抱くことがある。

 そんな時、その人間の個人HPがあると便利だ。プロフィールがなくとも、

趣味や嗜好が分かるからだ。逆に自分をアピールする意味でも便利かも知れな

い。

 これからの時代、個人HPも捨てておけない存在になるかも知れない、なん

て思った。

300HIT

 自分でキリ番を踏んでしまった・・・。せっかくキリ番記念館に載せるチャ

ンスだったのに自分で踏んでしまうとは。自分のHPのキリ番を踏む心情が分

かった気がする。

387HIT

 バイトに行く。バイトはコンビニの店員だ。夜間勤務でチャイムこと清田と

一緒。深夜になるとさすがにお客が少なくなるので、棚の整理をしながら清田

とゲーム関係の話に熱中する。途中、あかねが陣中見舞いに遊びに来た。

 一応、仕事中なのを気にしてか、あかねは軽い話をして、ウーロン茶を買っ

てすぐに帰った。いなくなってから清田に冷やかされる。照れるが悪い気はし

ない。

 仕事があがったのは朝の6時だった。

 という訳で今日はHPの更新はなし。

421HIT

 リンクコーナーにゆかいのHPを加えた。

 早速、ゆかいのHPに行って掲示板に書き込みをする。

 「発信者 うめ

 ゆかいさん、今日リンク張りました!確認のほどをお願いします。そうそう

ゆかいさん音ゲーの「ドラム・オタク」はやりました?面白いですよ!」

「ドラム〜」はゆかいの音ゲー攻略日記というコーナーを見て書き込んだのだ。

 実際、面白いゲームだ。

436HIT

 ゲームリンクHPで見つけたとあるHPに行った。「Junp!」という

HPなのだが、更新速度がやたら早い。ウチのHPも3日に1回更新するので

早い方だと思っていたが、そこのHPは1日1回は必ず更新している。前にも

書いたが、確かに更新速度が早いとちょくちょく訪れてみたくなるものだ。僕

は、そこのHPの掲示板に、はじめましての挨拶と更新スピードの凄さの感想を

書いて置いた。

504HIT

 500HITクリアだ。だれかキリ番を踏んだだろうか。掲示板を見てみる。

 「発信者 E/V/H 

 はじめまして。ウチのHP「Junp!」書き込みありがとう。俺も早速

来てみたよ。っていきなりキリ番500踏んじゃいました。ラッキー」

 なんと、この前行ったばかりの「Junp!」の制作者らしい。早速、レス

とキリ番名鑑にその名を刻むことにする。これでヒデに引き続き2人目だ。

 だんだん、このキリ番名鑑もその体をなしてきた

554HIT

 ゲームコーナーを更新した。ゆかいのHPに触発されて、アーケードの音ゲ

ー関係の攻略法を追加した。

 掲示板を覗く。

 清田とゆかいの書き込みがあった。彼らの書き込みにレスを付ける。

 僕は必ずレスを付けるようにしている。というのは、逆に自分の書き込みに

レスを付けてもらえると嬉しいからである。前の日、とある掲示板に書き込み

をして次の日、どんなレスがついているんだろう、とわくわくしてマウスをク

リックする自分に気がついているからである。

 逆に言えば自分のHPの掲示板で、きっちりレスをつけるのは自分のHPの

活性化につながるのだろう。

589HIT

 あかねとゲーセンに行った。いや、べつにゲーセンに行くのが目的だったの

ではなく、映画の待ち時間、他にやることがなかったのでゲーセンに行ったの

だ。騒々しい電子音にあかねは初め顔をしかめていたが、次第に慣れたのか僕

のプレイするゲームを後ろから見ていた。僕は「ヴァーチャ・サッカー」をプ

レイした。使った国は「スペイン」。「スペイン」を使ったのは好きな選手

ラウルがいるというただそれだけの理由。だが、1TOPのチームなので、他

のチームとは違った技が必要になる。10回に1回は成功するはまり技がある。

キック・オフと同時に右サイドにボールを放る。走り込んでいた右サイドにボ

ールが渡ったらダイレクトでゴール前にボールを放り込む。すると、ちょうど

DFとGKの間にボールが落ちるので飛び込んで来たFWがそれをたたき込む

という寸法だ。その時はそれが上手く成功した。僕は後ろのあかねに向かって

ガッツポーズをした。あかねはにっこりと微笑みを返す。結局、3回戦で「オ

ランダ」に負けたけど。

622HIT

 ゲームコーナーをまたまた更新。まめに更新すると気のせいか、カウンター

の回る速度が早くなるような気がする。でも確かに、何回もそのHPに訪れて、

全く更新されていないHPだと、足が遠のくのは分かるような気がする。

 実際、面白かったHPでも、最終更新日時が1年前なんていうのは二度と訪

れる気がなくなる。

645HIT

 この前、ゲームリンクHPに登録した。今日、早速リンクが張られていたの

だが、僕のHPの所は「NO BANNER」の文字で紹介されていた。今ま

でバナーなんぞ、重くなるだけの不要な物と認識していたのだが、こう他のバ

ナー有りのHPと並ぶと、ウチのHPの「NO BANNER」だけ妙に浮い

ていて恥ずかしい。早速、バナー制作に取りかかることにする。

689HIT

 散々試行錯誤した挙げ句、やっとバナー完成。OS付属のペイントソフトで

最初作ってみたのだが、色を流し込んだだけではあまりに素人っぽいので、他

のペイントソフトを使ってグラデーションやぼかしをいれてみた。

 うん、少しはバナーっぽくなった気がする。TOPページに

 「バナー出来ました」

 とお決まりの文章を載せる。ちょっと照れくさくなった。

 ついでに掲示板を見るが今日の掲示板には書き込みがなかった。

 

712HIT

 メールをチェックしていたら1通メールボックスに入っていた。

 開いてみる。

 「発信者 YO−KO

 祝!!700HIT!

 うめさん、700HITおめでとうございます!

お祝いCGを描きました。お気に召すか分からないけど・・・

よろしかったら受け取ってやって下さい。

これからも頑張って下さい。次は1000HITだね!」

 添付ファイルがついていたので、クリックして開く。

 僕が以前ゲーム攻略コーナーで書いた格闘ゲームのキャラクターのイラスト

だった。プロか?と見まごうばかりの上手さで驚いた。早速TOPページで飾

らさせてもらおう。僕のページはイラストが無いので、常々「華がないなあ」

と思っていたところだったのだ。

 YO−KOには感謝のメールを送った。

747HIT

 大学で実習が続いているのでここのところHPの更新が滞りがちである。

 そんなとき掲示板って便利だ、としみじみ思う。ファイルを転送という面倒

なまねをしなくてもただ、書き込むだけで済むのだから。おまけに他の人も他

のコーナーが更新されていなくても、掲示板には訪れる確率が高いし。

 ゆくゆくはHPも掲示板のように簡単に更新出来るタイプのものに進化して

行くのだろう。

799HIT

 大学の食堂であかねと待ち合わせした。試験対策でノートの交換をするため

だ。

 講義が早めに終わったので僕が先に食堂に着いてしまった。しかたがないの

でカツカレーでも食べながらあかねを待つことにする。職人芸なみに薄いカツ

を頬張っていたら程なくしてあかねがやってきた。

 お互いのノートを交換する。趣味と同じように互いの得意な科目も見事に

かみ合っていないので、こういう時、特をする。

 あかねのノートをぺらぺらめくる。几帳面に、しかしそれでいて字間はゆっ

たりとしている。あかねらしいノートだ。対して僕のノートは至る所にイタヅ

ラ書きがあり、あまり人にはお見せしたくないノートだ。僕のノートを見せら

れるのは勝俣とあかねくらいなものだ。あかねは僕のノートをひとしきり眺め

た後、くすりと笑った。

 家に帰ってから試験勉強もやらず、自分のHPを覗く。「799」だった。

 次、踏んだ人間がキリ番だ。一体誰が踏むことになるのだろうか。常連か、

はたまた一見さんだろうか。

812HIT

 バイトで頭に来ることがあった。とあるメーカーのガムが欲しいというお客

が現れた。僕はガムのコーナーに行って探したが、運悪くちょうど品切れだっ

た。その事をいうとその客は急に怒りだした。なんで俺の欲しいガムがない。

そのガムは人気があるのに多めに発注出していないこの店が怠慢なのだ。店長

を呼べと。

 僕はあやまる必要がまるでないと思われたのだが、平身低頭謝った。しかし、

その客は良くまあこんなに激しい感情を持続出来るな、と感心するほど激昂し

っぱなしだった。結局、休憩時間の店長を呼ぶはめになってしまった。

 店長がひとしきり謝って、その場は済んだが、その後店長に「こんなことで

呼ぶな」と怒られる始末。理不尽なことこの上ない。腹いせにネットで書いて

やることにした。もちろん固有名詞は全て伏せてであるが。

 なお、800HITの報告は無かった。キリ番を踏んだのはやはり一見の人

だったらしい。

833HIT

 前回、リアルワールドであった不快なことを日記に書いたら、早速掲示板に

反応があったのでびっくりする。みんな手法は違うが励ましの言葉を書いて

くれている。ネット上という仮初めの付き合いではあるが、嬉しいものだ。

 ちょっと、じんと来た。そしてあれ以来続いていた不快感も取れた。

849HIT

 気分を紛らわす為、今日は他の人のHPを巡回した。

 ゆかいのHPの掲示板で以前の僕の書き込みにレスが付いていた。

 前、僕は「バーチャ・サッカー」で「スペイン」を愛用しているという書き

込みをしたのだ。それに対するレスであろう。

 「発信者 ゆかい

 うめさん。「スペイン」は使いづらくないですか?1トップのせいか両サイ

ドが思ったようにオーバーラップしてくれないです。スタート時のゴール前の

放り込みも成功率低いですし。2列目の飛び込みは凄いけど。私はやっぱり

バッジョの「イタリア」ですね!」

 そこまで読んで「?」と思った。僕はインターネット上でまだ「スペイン」

チームでのはまり技の公開はしていないのだ。

 それとも誰かの同様の書き込みを僕の書き込みと勘違いしたのか。まあ、い

ずれにしても不可解だ。

884HIT

 さすがにそろそろ試験勉強をやらなければまずいだろう。僕はあかねのノー

トを開きながら、勉強を始めた。小1時間もした頃、僕はノートの片隅に猫の

いたずら書きに気が付いた。あかねにしては珍しいな、と思いながらそのいた

ずら書きをぼうっと眺めていて、ふとどこかで見たことがあるような気がして

きた。だが、いくら考えてもそれがどこでだったか思い出せない。しばらく考

えた挙げ句、たぶん、以前やはりあかねのノートででも見たのだろうという結

論に達した。余計なことで頭を使いすぎたのか、以後集中力はなくなり、その

日の試験勉強はそこで終了した。

 そういうわけでHP更新はしばらくお休みになりそうだ。

901HIT

 今日自分のHPに

 「試験中につき約1週間休止」

 と書いて置いた。

 ・・・くせしてゲームコーナーをところどころ更新してしまう。ついでに他

人のHPも軽く巡回する。僕はネット反比例の法則を発見した。

 忙しければ忙しいほど、ネットに訪れる回数・時間が増えるというものだ。

 ・・・冗談はこれくらいにしておこう。

 プラークやE/V/Hも学生らしく、それぞれの掲示板に試験についての愚

痴が書かれている。

 ゆかいのHPをみる。

 日記コーナーで「昨日、試験勉強をした」

と書いて有った。あれ?ゆかいは社会人ではなかったのか?それとも資格を

取るための試験なのだろうか?

 他人の心配をしている場合ではない。僕はネットサーフィンをそこそこにし

てレポート制作に取りかかった。

935HIT

 今日は大学の研究室で勝俣とあかねと3人で試験勉強をした。勝俣はほとん

ど僕とあかねのノートを写すだけ。僕とあかねは互いの分からないところなど

を聞きあった。

 大学の研究室から自分のHPにアクセスしてみる。カウンターは回っていた

が、特に掲示板への書き込みはなかった。

987HIT

 試験が今日で終わった。気付くと1000HIT間近だ。1000HITに

合わせてHPを更新しようかと思い、いろいろ企画を考える。

 約1週間ネットに繋いでいなかった反動で、ガンガン他のHPを巡回する。

 各HPとも知らない間に、みんな更新しており、頑張っているなあと感心す

る。

 ゆかいのHPはイラストがUPされていた。

 可愛い感じの猫のイラストだった。

 ふと、そのイラストがどこかで見たような気がした。

 猫。猫・・・

 あっ、とディスプレイの前で僕は思わず声を挙げる。そして前にあかね

から借りたノートをバッグの中から引っぱり出し、ぺらぺらめくる。

 あった。

 あかねの猫の落書き。ゆかいのHPのイラストの同じとまではいかない

までも、そっくりだ。

 これはどういうことなのか。単なる偶然なのか。それとも、ゆかいは

あかねの知り合いで盗作をしたのか。???ま、公式に発表されたものではな

いから盗作という表現は大袈裟だが。とりあえず、ゆかいが九州在住なんかで

はなく、僕の近くにいる人間のような気がしてきた。

 僕はゆかいにメールを送ることにした。

 「発信者 うめ

 ゆかいさん。

 ええと、すみません。質問です。

 もし違っていたらごめんなさい。

 今回UPされた猫のイラストなんですが、僕の知り合いの描いた猫と非常に

良く似ているのです。もしかすると彼女と(安藤あかねといいます)と知り合

いですか?はたまた、彼女の描いた絵をどこかで見たとか。

 ただの偶然だとは思うのですが、ちょっと気になったもので。

 お気を悪くしたらごめんなさい。

 それでは」

 メールを送信してから、やっぱり送らなければ良かったかな、という後悔

 の念が先にたった。ひょっとするとこれを不快に思い、ゆかいとのネット上

の縁は切れてしまうかも知れない。

1010HIT

 次の日、学校であかねに会った。ゆかいのことを聞いてみようかな、と思っ

たが、趣味違いなことを聞いてもまたあかねにつまらない思いをさせるだけな

ので、やめておいた。

 家に返ってからネットに繋ぐ。

 1010HITだ。ついに1000HITオーバー。やったね。

 掲示板を覗いて見る。

 「発信者 KATU

 祝!!1000HIT!HP開設時はどうなるかと思ったけど、だんだんH

Pらしくなってきたね。これからも、よろしく。あ、心理学のノートもよろし

く!(^−^)」

 「発信者 チャイム

 ちは。1000HITおめでとう!次は2000HITだね!ヴァーチャ・

サッカーついに得点ランキングに載ったよ!」

 「発信者 YO−KO

 祝1000HIT!やったね!お祝いCG届いたかな?結構、自信作です」

 「発信者 プラーク

 うめさん、1000アクセスおめでとうございます。しかし、途中からカウ

ンターのスピードがいきなり早くなりましたね。このままだと、ウチのHPも

追い抜かれるかも(汗)。これからも、よろしくお願いします」

 「発信者 ヒデ

 俺が100HIT踏んでから、わずか数週間で・・・。凄いね!!これから

もよろしく!!」

 「発信者 E/V/H

 1000HITおめでとうございますー!俺は1002HITでした。おし

いっ!500HITに引き続きキリ番だったのに。何はともあれこれからも

頑張って下さい」

 「発信者 うめ

 KATUさん、チャイムさん、YO−KOさん、プラークさん、ヒデさん、

E/V/Hさん、お祝いの言葉どうも、ありがとうございます!これからも

がんばりますので、末永くおつきあいのほどを」

 という感謝の言葉をオンラインで書き込んだ。書き込んだあと、しばらくして

更新した掲示板が表示される。僕の書き込みの前にもう1人誰かが書き込んだ

ようだ。おそらくほとんど同じ時間帯で書き込んだのだろう。

 ゆかいの書き込みだった。ほっとした。この前のメールは別に不快に思われて

いなかったようだ。僕はそれを読む。

 「発信者 ゆかい

 記念すべきキリ番1000を踏みました。踏んだついでに書きます。

 ごめんね。HP開設した辺りで言おうと思ったんだけど、何か言い出しずら

くなっちゃって。今日も学校で言おうと思ったんだけど・・・

一応うめさんの趣味のことを知ろうと思って始めたんだよ。おかげでパソコン

やTVゲームも楽しいもんだって分かりました。これからもネットでも私生活

でもよろしくね。そうそう遅くなりましたが1000HITおめでとうござい

ます!」

1019HIT

 試験が終わった最初の日曜日、僕はあかねとプールに行った。案の定、僕は

足が着くプールでぶくぶく沈むだけだったが、あかねは僕と一緒に水に浸る

だけでも楽しいって言ってくれた。僕もぶくぶく沈んでいるだけだったけど

確かに楽しかった。

 プールから帰る車の中で、僕らは互いのHPの今後のコンテンツについて話し

合った。非常に有意義な時間だった。

 僕はその日あかねの掲示板に書き込みをした。

 「発信者 うめ

ゆかいさん。どうもありがとう。

必要なことを教えてもらいました。

そして、

これからもよろしく」


あとがき

HPの1000HIT記念に合わせて書きました。

振り返って読むと、ネット初期のホームページの作り方、みたいな感じで意外と資料的価値があるのかも……w