99-03-22


分子生物学から見た色覚

吉澤透 大阪産業大学工学部情報システム工学科教授    

第12回 眼科ME学会 (1997-11-23) 抄録

   我々は数年前、ニワトリの錐体外節から4種類の錐体物質(ニワトリ赤・緑・ 青・紫)の抽出・精製に成功した。なぜニワトリが4種で、ヒトは3種なのか。 この疑問に答えるために、視物質の進化について考察した。そのためニワトリの 4種の錐体物質と松果体の光受容蛋白質(ピノプシン)、また桿体だけを持つヤ モリの2種の視物質のアミノ酸配列を先ず決定した。アミノ酸の相同性から、こ れらのものが錐体型視物質であることがわかった。
更に視物質の分子系統樹を作 成した。その結果、錐体物質は桿体物質(ロドプシン)より、即ち色覚を含めて 昼間視は薄明視より先に分化したと考えられる。
また全ての錐体物質は塩基性蛋 白質、ロドプシンは動物種により弱塩基ないし酸性蛋白質で、錐体物質の塩基性 アミノ酸が中性または酸性アミノ酸に置換することにより、錐体物質がロドプシ ンに変化したといえる。またピノプシンは視物質の先祖型に一番近いと推察して いる。
さて色々な脊椎動物について視物質を調べると、進化の初期段階で4種の 錐体物質と1種のロドプシンが分化した。爬虫類全盛時代に生じた哺乳類の先祖 は夜行性であり、そのために錐体物質の退化が生じた。実際多くの哺乳類は色盲 で、新世界ザルはニワトリ赤と紫に相当するものしか持っていない。ところがそ れより高等な旧世界ザルやヒトでは、こワトリ赤型がヒ卜赤型とヒ卜緑型に分化 した。ヒト青はニワトリ紫に相当するものである。  ニワトリの網膜には、一種の桿体と、5種の錐体とがあり、錐体には、主錐体 と副錐体とからなる1種の複合錐体と、4種の単一錐体とがある。
主錐体や単一 錐体の内節には、色の異なる5種の油球がある。我々は各視物質の吸収曲線や免 疫組織学的研究などから、視細胞、視物質と油球の組み合わせを決定した。
ニワ トリ赤は複合錐体の外節に局在している。油球は入射光に対して色フィルターと して働くから、ニワトリ赤の吸収曲線を主錐体の緑油球および副錐体の内節部の 透過率曲線で補正した。得られたこつの補正された吸収曲線はいずれもこワトリ の昼間視感度曲線と一致したので、複合錐体は昼間視の光強度の識別に関与して いると考えている。従って色覚に関与しているのは単一錐体である。
 単一錐体の外節に存在するニワトリ赤・緑・青・紫の吸収曲線を、それぞれ赤 ・黄・無色・青の油球の透過率曲線で補正した。その結果、ニワトリは約600 nm以下の単色光の波長を、二つの錐体物質の吸収の比で識別していることがわ かった。更に、色図形を作って検討したところ、油球のフィルター効果は、波長 識別能(分解能)を高めていると考えられる。
視物質レベルでは、ヒトよりトリ の方が優れた色識別機構を持っているといえる。



                      

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