10-04-20更新 )


神経眼科,レーザー医学,眼科ME 関連学会報告



日本眼科学会総会2010 名古屋 報告 (光網膜障害 神経眼科関連)

2009年皆既日食による眼障害の発生状況
尾花明 (聖隷浜松病院)他
【目的】 2009年7月の皆既日食による眼障害発生状況を、天文教育普及研究会・世界天文年2009日本委員会のアンケート調査から検討した。
【対象と方法】アンケートはweb上で行い、天文及び学校関係者や-般人に呼びかけた。設問は、年齢、性別、観察時天候、観察方法、観察時間、使用用具、自発症状、症状発現時期、症状持続期間、眼科受診である。
【結果】 16歳〜60歳代の14例(男12、女2)の報告があった。日食グラスなど専用フィルター使用は8例で、全例が内眼や他の安全性未定用具も使用していた。他の6例は内眼か安全性未定用具(下敷き、ビニール袋、 CDなど)を使用していた。<BR> 症状は違和感、熱感、痔痛、中心暗点、視力低下など様々で、症状持続期間を重症度の指標にすると、すぐに軽快した3例は曇天下に内眼で敷十秒間観察した例で、 1過以内持続の6例は曇天下に内眼または安全性未定用具で10分程度観察した例、 1週以上持続の5例は快晴または薄曇で肉眼または安全性未定用具で数十秒〜10分以上観察した例であった。 3例が眼科を受診した。
【結論】太陽観察用フィルターの安全基準は可視光透過率0.003%以下、近赤外0.5%以下で、日食クラスはこの基準に合致するが、障害例はすべて正しい使用法を遵守していなかった。障害程度には天候と用具の透過率が影響した2012年には金環日食があり、関係者の適切な知識と一般への啓蒙が重要と考える。
眼科を受診した3例で1例は網膜に異常なし。1例は11000mの航空機より観察。OCTにて異常+〜+/-でした。 残る1例は黄斑浮腫とのことだが詳細不明。  全国的に天候が悪かったのが幸いした。
日食を見たい、レーザーポインターを人に照射する。これらは 人の本能的な行動に思える。


小児におけるバターン.リバ-サルVERを使用 した他覚的両眼視機能分析法について
勝海修 他、 .西葛西井上眼科こどもクリニック他
【目的】パターン.リバ-サルVER (PVER)を両眼開放下で記録し、それを片眼で記録したものと比較し、他覚的に小児の両眼視機能を分析する。
【対象と方法】両眼開放下で記鎖したVER (BVER)と片眼で記録したVER (MVERの振幅の比をB/M億としたB/M佃が1.1以上の場合はPositive summation、 B/M億が0.9-1.1の場合はZero sumnation,そしてB/M億が0.9以下の場合にはNegative summationとしたo
 対象は遠視性不同視8例[弱視(+) 4例、弱視:-) 4例)、片眼性白内障2例、そして心因性視覚障害5例の計15症例(年齢6-14歳平均9.0歳、男子7例、女子8例)である。
 PVER測定に使用した刺激パターンは市松模様で、刺激野の大きさは25度×25度,各チェックの大きさは30分であり、刺激反転頻度は毎秒2Hzと12Hzであった。刺激パターンのコントラストは85%であった.
【結果】遠視性不同視では弱視の有無に拘らずB/M価が0.94-1.07 (平均値1.026/標準偏差0.046)のZero summationを示した。心因 性視覚障害5例においてはB/M値が1.38-1.65 (平均値1.495/標準 偏差0.099)の範囲であり、 Positive summationを示し,遠視性不同 視と比較して有意に高いB/M値を示した(Mann-Whitney U test, P-0.0059)。片眼白内障2例においてはB/M借が0.71と0.75であ り、 Negative summationと考えられた。
【結論】両眼PVER振幅と片眼PVER振幅を比較することより、他覚的に小児の両眼視機能を分析することが可能であると考えた。
弱視では加重なし、心因性視覚障害では加重あり。片眼性白内障では抑制あり、加重なしの結果となり、この方法は臨床的意義が大きい。


甲状腺眼症の免疫学最前線
橋本雅人 (札幌医大眼科)
 
甲状腺限症はBasedow病の3徴の1つとして知られているが、甲状腺ホルモン(血中遊離T3, T4)が正常あるいは低下の状態であっても眼症は生じる。従って、甲状腺眼症は甲状腺機能異常とは切り離した、眼窩局所の臓器特異性自己免疫疾患として捉える必要がある。
甲状腺限症はこれまでの免疫学的研究によると、眼窩後組織内に存在する線雑芽細胞が眼窩内に浸潤したT cellの標的細胞であり、活性化された線雑芽細胞はその産物として親水性で粘液多糖体であるグリコサミノグリカンを眼窩内脂肪や外眼筋内に蓄積する。これが眼球突出や外眼筋の線雑化などの不可逆的変化をもたらす。我々は以前に、プロトンMRスペクトロスコビー(1H-MRS)を用いて眼窩脂肪内に存在するグリコサミノグリカンの一種であるコンドロイチン硫酸プロテオプリカンを検出できることを見出し、甲状腺眼症患者では正常人に比べて、コンドロイチン硫酸プロテオプリカンの眼窩内濃度が高いことを示した。さらにこのコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの眼窩内濃度は、甲状腺限症患者においてステロイドパルス療法前後で変化がないことが示されており、一度眼窩内に蓄積すると不可逆的な変化をもたらすことを示唆する結果と思われる。 本シンポジウムではこれらの研究結果をもとに甲状腺眼症における免疫学的発生機構について最近の知見も加え解説していきたい。


抗アクアポリン-4抗体陽性視神経炎
高木 峰夫 (新潟大眼科)

視神経炎の近縁疾患である多発性硬化症(MS)には通背理多発性硬化症と視神経脊髄炎neuromyelitis optica NMOが知られているが、最近NMOに関しては血清中抗アクアポリン-4抗体(AQP-4Ab)が特異マーカーとして確立された。
特発性視神経炎に関してもNMO同様の発症機序による群があると想定され、私たちは多施設研究として視神経炎の血清に対してAQP-4Abを調べ、陽性例すなわち抗アクアポリンー4抗体陽性視神経炎(AQP-4Ab陽性視神経炎)の病像を解明しつつある。視神経炎と診断された11.5%の44例65眼で陽性を示し、発症時年齢2-82歳(中央値50歳)と中高年を中心に広く分布、男女比4 : 41、最低視力手動弁、最終視力0.1程度(いずれも中央値)と視機能障害が強くて再発性が高く、半数が両眼発症していた。また80%は何らかの抗体が陽性など、特徴ある病像を示しており、これの病像は発症年齢がやや高めな以外はNMOに伴う視神経炎と一致している。
治療面でも、これまで視神経炎のステロイド治療の長期予後に確たるevidenceが得られていないが、このAQP-4Ab陽性視神経炎に関しては急性期にはステロイドパルス療法による十分な消炎に加えて血祭交換療法も考慮され、少なくても再発性の強い例には慢性期に長期ステロイド内服・免疫抑制剤による再発予防が考慮される。将来の脊髄炎の発症も危供され、マネージメントのためQP-4Ab検査が必須となりつつある。

ステロイドの効果は急激ではない特徴がある。注意深い観察が必要とのこと。


中心1 0度視野による網膜色素変性症の進行速度
飯島裕幸 他. (山梨大)

【目的】われわれはすでに、網膜色素変性症(RP)患者のハンフリー中心10-2視野の平均偏差(MD)を、線形回帰分析することで、その進行を定量的に評価できることを発表した(HirakawaH,liiimaH,etal. : AmJOphthalmo1 127 : 436-442, 1999)今回、その方法を利用して、 10年以上経過敏察できている症例における進行速度を調査した。
【対象と方法】 10年以上経過敏察したRP患者41名のハンフリー中心10-2視野をレトロスペクテイブに解析した。右眼データのみ使用した。
【結果】 41例中29例(71%)でMDは統計学的に有意な負の価を示し進行が確認できた。直線回帰の回帰係数は-0.07から-1.96dB/yearの間に広く分布し、多くは-0.25から-0.5dB/yearの範囲内に分布した。  一方30%の症例は10年の経過でも明らかな進行を示すことがなかった。このことは中等度の視野障害を示す症例、すなわちMDが-10dBから-25dBの範囲内に分布する症例に限定しても同様であった。
【結論】 MDで評価したRP患者の進行速度は症例により大きく異なり、 10年の経過でみても、なお統計学的に有意な進行を示さないような緩徐進行症例も存在する。

眼底所見で周辺部との境界が明確なものは、進行が遅い。



日本神経眼科学会 2009 東京

非動脈炎性前部虚血性視神経症に対する経角膜電気刺激治療の治療効果の検討
  森本壮、下僚裕史、北口善之、松下賢治、不二門尚  大阪大学眼科

目的:非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)に対し、我々は経角膜電気刺激(TES)治療を行っている。今回、TES治療を行った患者の視力改善とステロイド治療の有無、治療の時期、治療前の視力、治療回数について検討した。
方法:対象は2003年7月から当院でTES治療を受けたNAION症例29例29眼、年齢31から79才、治療 前の視力は手動弁から0.6。ステロイド治療例は17例であった。 全例、乳頭浮腫の消失後にTES治療を行った。 TES治療は1回のみか3回行い治療開始から6カ月後の視力を測定しステロイド治療の有無、治療前の視力、治療の時期、治療回数について検討した。
結果:治療6カ月後に0.3logMAR以上の視力改善がみられたのは11例であった。ステロイド治療の有無と視力改善の割合は、ステロイド治療群は7例(7/17)、ステロイド未治療群4例(4/12)で改善したが視力改善の割合に有意な差はなかった。治療前の視力を0.1以上と0.1未満に分けて比較したところ0.1未満で視力改善が1例(1/10)、0.1以上では10例(10/19)で有意な差がみられた。治療の時期についても視力改善と有意な相関はなかった。治療回数についても3回治療群の視力改善は6例(6/14)、1回治療群は5例(5/15)で両者に有意な差はなかった。
総括:治療によって視力の改善が見込める例は、治療前の視力が0.1以上で1回のTES治療で改善すると考えられる。今後自然経過との比較も含め、さらに症例を重ね検討していく予定である。
経角膜電気刺激の臨床成積                ,i
畑瀬哲尚、高木峰夫、植木智志、高田律子、三木淳司、臼井知聡、長谷川茂、阿部春樹      新潟大学眼科

【目的】近年、経角膜電気刺激(以下、 TES)は網膜のIGF-1を誘導すること、神経保護作用を有することから視神経症に対する治療応用が報告されている。我々は種々の網膜視神経疾患にTESを行い治療効果を検討した。
【対象と方法】対象は非動脈炎性虚血性視神経症18例20眼、視神経萎縮14例20眼、緑内障4例6眼、外傷性視神経症3例3眼、網膜色素変性症2例4眼、等計50例65眼に対してTESを行い、治療前後で視力、視野検査等を行った。視力の変化はIogMAR換算にて0.2以上の変化を改善ないし悪化とした。
【結果】非動脈炎性虚血性視神経症では3例3眼で改善、 2例2眼で悪化、その他は不変だった。視神経萎縮では3例3眼、外傷性視神経症では2例2眼で改善を認め、その他は不変だった。緑内障、網膜色素変性症では全例で不変だった。脳神経外斜手術後の視力障害では2眼全例で改善を認めた。
【結論】難治性、進行性の疾患であり、神経細胞機能の改善の評価は難しいことや、急性期の疾患では自然改善と区別することの困難さなど、さらなる長期的な評価が必要であり課題もあるが、 TESが有効な症例があることが示唆された。

経角膜電気刺激は網膜、視神経系疾患の治療法として、日本(阪大)のオリジナルなもので、ぜひとも完成させたい技術の一つである。そろそろ治験を全国展開する時期と思える。

第113回日本眼科学会総会(2009年4月)
東京国際ホーラム 主催日大眼科 澤充教授
 視覚科学の創造をテーマに充実した学会で、前評判もよく、これまでで最高の参加人数となった。
神経眼科関連演題を紹介する。
網膜変性疾患の治療に挑む(シンポジウム3)
緑藻類由来遺伝子の導入による視覚再生の現状と課題 富田浩史 他 1.東北大・融合頒域研究所 2.東北大生命科学研
緑藻類クラミドモナスより見出されたチャネルロドプシン-2(ChR2)は、光受容に際し、陽イオンを細胞内に透通させる、 「光 受容陽イオンチャネル」として働くことが知られている。この特徴的な機能からChR2を神経細胞に発現させることによって、 神経細胞に光受容能を賦与することが可能である。これまでに我々は遺伝盲(RCS)ラットの残存する網膜神経細胞にChR2 を導入することによって、視機能を回復できることを電気生理学的、行動学的に明らかにしてい
視細胞移植実現のための課題
 高橋政代 万代道子 平見恭彦 1.理化学研究所 2.先端医療センター
近年幹細胞研究が進み、網膜変性疾患の再生治療に必要な視細胞や網膜色素上皮細胞をヒトES細胞やiPS細胞から分化誘導 することができるようになった。それらを用いて網膜機能を再生するためには様々な問題を解決すする必要がある。
評議員会指名講演2眼疾患と動物モデル
近藤 峰生(名古屋大眼科)
網膜・視神経疾患動物モデルのERG解析

網膜色素変性(RP)モデルウサギの作成
我々は P347L変異遺伝子を導入し、世界で初めてウサギでRPモデルを作成することに成功し た(Kondo et al. IOVS, in press)。
このTgウサギは実際のRP患者と同様に杵体優位の視細胞変性をおこし、生後約1年で杵体機能が消失する。
興味深いことに、このTgウサギのERGでは、生後12週程度の早期で網膜内層起源のERG成分である律動様小波(OP波)が正常より大きくなるという興味深い現象がみられた。  
Es細胞より視細胞を作り出す技術は完成し、最も大事な移植に必要な細胞数の確保が可能となった(高橋)。さらに、緑藻類クラミドモナスよりの遺伝子操作により神経細胞に光受容能を与えることができた(富田)し、有色ウサキの網膜色素変性モデルも゙作成することに成功し(近藤)ているので、移植への基礎知識は今後急速な増加が見込まれ、人体への適用も間近であろう。

ベーチエツト病による網膜ぶどう膜炎に対する治療の最前線
蕪城俊克(東京大眼科)

抗ヒトTNFa抗体Infliximabは臨床試験において、従来の治療薬には不応な網膜ぶどう腺炎による眼 発作を強力に抑制することが確認され、2007年に世界に先駆けて本邦でベーチエツト病による難治性網 膜ぶどう膜炎 への適応が承認された。  
従来の治療薬(コルヒチン等)の治療の後にInfliximabを使用することが承認の条件であり、両者の 効果を眼内炎症発作間隔で比較したところ、明らかにInfliximabで発作回数の減少が確認できた。
さらに  1例のみであるが早期に神経ベーチエツトと診断された症例では今日まで一度も発作なしで経過しているとのこと。
 難治のベーチエツト病を何とか押さえ込める希望がでてきたようである。


日本眼科学会(2008)
第45回日本神経眼科学会(2007)   日本臨床眼科学会(2007 10)京都(LEDによる眼傷害追加) 日本眼光学学会(2007 09)旭川 (表紙の写真は旭山動物園)
日本小児眼科,斜視弱視学会(2007 06)名古屋 日本眼科学会(2007)

IEC/TC76 国際レーザー安全基準委員会( 長ア2006)  第16回国際神経眼科学会(2006)  日本産業労働交通眼科学会(2006)
第60回 日本臨床眼科学会(2006)  眼科ME学会 (2006) 

第43回日本神経眼科学会(2005)  第59回 本臨床眼科学会(2005) 
第42回日本神経眼科学会(2004)  第58回日本臨床眼科学会(2004)  第108回日本眼科学会(2004) 


日本眼科学会(2008 04)横浜 パシヒコ
  片頭痛の視覚機能と眼自律神経機能に与える影響の検討

  原直人、有本あこ他 神奈川歯科大眼科
【目的】片頭痛では、発作間欠期の視覚野における視覚系の潜在性易興奮性(hyperexcitab=ty)が報告されている。また片頭痛は、全身自律神経系の異常を併発する場合がある。片頭痛間欠期と発作中の視覚機能および眼自律神経機能を比較して視覚情報処理の異常を検討する。
 【方法】対象は、前兆を伴わない片頭痛:男性1名(42歳)・女性5名(28-77歳)、前兆を伴う片頭痛:女性2名(28歳・73歳)である。検査項目は、 1)視力、 2)コントラスト感度 (CSF) 3)対光反応:赤外線電子瞳孔計を用いて記録した。これらを頭痛間欠期と発作中に行った。なお検査は、十分な説明の後インフォームドコンセントを得て行った。
【結果】 1)視力およびCFS:間欠期のCFSは、全周波数域で高い感 度を示した。若年者2名は、眼鏡の-0.25Dのdefocusが片頭痛発作 を誘発した。一方発作中は、視力低下に加えて中〜高周波数城で感 度低下がみられた。 2)対光反応:発作中に測定できた3名は、縮瞳 率が2卜25%に減少していた。
【結論】片頭痛間欠期には、視覚系易興奮性が存在した。発作中に は、視覚情報処理と眼副交感神経系の障害が示唆された。片頭痛発 作予防には、僅かな低矯正に対しても的確な屈折矯正治療が重要で ある。

偏頭痛など眼精疲労を起こしやすい症例にはやや低矯正の眼鏡を使用させるのが一般的であるが、それは不可で完全矯正の眼鏡を使用すべきとの極めて注目すべき発表である。文献欄に紹介した若年者VDT眼精疲労に低矯正眼鏡は不可との論文に嗣ぐものである。両論文をよく検討し、完全矯正を是非試みてみたい。 

日本神経眼科学会(2007 12)大阪 (会長近畿大眼科中尾雄三教授)
多発性硬化症に関連し最近のトピックスの抗アポクリンー4抗体関連で特別講演,ランチョンセミナーだけではなく 、一般講演にも多数の演題があり、多発性硬化症関連疾患の病態,治療に関する会員の知識の向上に大いに寄与した。
 またMiller Fisher症候群の特異抗体 抗GQ1b IgG抗体を発見された神経内科楠進教授の特別講演 、教育講演の放射線科 藤沢一朗部長の視神経交叉付近の画像診断など 眼科以外の方々の質の高い講演が続いた。
 神経眼科講習会は現在 神経眼科学会をリードされている5人の理事(若倉、石川、三村、柏井、中尾)のこれ以上ない 豪華メンパーで講演された。 神経眼科認定医制度の制定 についても案が発表された。昨年の国際眼科学会が盛会裡に終わり、本会に先だって開催された国際瞳孔学会(浜松)が話題の メラノプシン関連の口演もあり、これまでで一番との評を受けている。
 会長、会員の方々の熱意で神経眼科は本会で一段上のレベルに入ったと感じた。

眼球運動神経障害をきたした後部副鼻腔病変の4例 荒木康智1).2)、国弘幸伸1)、大出尚郎3)、小川郁1) 1)慶應大耳鼻咽喉科2)川崎市立川崎病院耳鼻咽喉科3)慶鷹大眼科
視力障害が生じる鼻性視神経炎または鼻性視神経症には時に遭遇するが、視力障害を伴わず眼球運動神経のみの 障害がみられる鼻副鼻腔良性疾患は稀であり、そのような後者の4症例を報告する。いずれも複視及び眼臓下垂 を主訴として眼科を受診、 CT及びMRIで後部副鼻腔病変が認められた。手術や抗生剤・ステロイド点滴を行っ た結果、眼球運動障害・眼険下垂は全例で改善した。同時期の鼻性視神経症6例と比較したところ、この4症例 では、 (1)CT/MRI上、病変の占拠範囲は小さい(2)稀な解剖学的バリエ-ションであるOnodi蜂巣の病変が 高率に存在(3)Onodi蜂巣も含めた外科的治療により神経症状の回復は良好(4)しかし改善するまで長期経 過を要する、という特徴が認められた。
本来の副鼻腔内に小さく分割された部分(Onodi蜂巣)は出口が小さく、保存的治療に抵抗しやすい。 画像にて確認され、内視鏡手術にて治療ができるとのことである。Onodi蜂巣の存在を忘れぬ ようにしたい。
甲状腺眼症の上眼瞼後退症に対するボツリヌス毒素療法の治療成績 木村亜紀子、三村治、鈴木克彦 兵庫医大眼科
  目的 甲状腺眼症の上眼瞼後退症に対し,当院の倫理委員会を通してボツリヌスA型毒素(BTX)療法を施行   し3年が経過した.その治療成績をまとめ,効果と副作用,問題点につき検討する.
  対象・方法 瞼裂開大を主訴に当院を受診し,その原因が甲状腺眼症の上眼瞼後退症と診断され, BTX治療を   施行され最低6ケ月間経過を追えた41例50眼(男性6例,女性35例,平均年齢43.3歳15-86歳)を対象とした.  方法はBTXを2.5単位/0.1mlから20単位/0.1mlに調整し,上眼瞼縁と眉毛の中央より少し上方に皮膚側から0.1   mlずっ2箇所に投与した. 1箇所2.5単位から開始し,効果のあった最小濃度量を維持量とし, 2週間毎に  MRD (margin reflex distance)を測定し効果判定した.患者が追加投与を希望した時点で追加投与を行い効   果持続期間とし,半年以上投与を必要としなかった症例を終了とした.
  結果 16例20眼(男性1例,女性15例,平均42.6歳)の40%で治療を終了することができた.終了群の発症から  治療開始までの期間は平均12.6ケ月,平均投与回数は2.9回,平均維持量は12.0単位,効果持続期間は2.1ケ月で  MRDは平均2.1mm減少した.残る20例24眼(男性5例,女性15例,平均42.8歳)は定期的投与を行っており,   それぞれ, 12.0ケ月, 7.0回, 14.0単位, 2.2ケ月, 2.5mmであった.自覚的満足により終了したものが3例3眼,  無効例は2例3眼で,うち1例には上限険挙筋延長術を施行した.副作用としての眼瞼下垂は4例4眼(8%)   に認められた. 2週間以上複視を訴えた症例はなく,複視のための不満を訴えたものはなかった.
 結論 上眼瞼後退症に対する皮膚側からのBTX投与は安全で整容的満足の得られる治療である.今後厚生省の   認可が下り規制が緩和され,広く用いられることが望まれる.
甲状腺眼症の上眼瞼後退症は非常に多い疾患であるが、現在のところ有効な治療法は少ない。本治療法は 好結果が期待出来るが、さらにすばらしいことは早期治療で再発が起こらず治癒するとのこと、 迅速な適応の認可処理が望まれる。
対光反射の色特性  前田史篤、丹沢慶一、米田剛、岡真由美、可児一孝、田淵昭雄 川崎医福大
  目的 昨年の第16回国際神経眼科学会で瞳孔に関する最近の知見として, melanopsinを含有する網膜神経節細  胞の働きが報告された。この細胞は,青色刺激に対して最もよく反応するとされている。本研究では,輝度とサ  イズが等しく,色長の異なる色刺激を用いて対光反射を記録し,その色特性について検討したので報告する。
  対象・方法 対象は屈折異常以外に眼科的疾患のない正常成人有志者15名(22.5±1.4歳), 15眼(右眼)であっ  た。対光反射の誘発に用いた色刺激は,白色(544nm),赤色(612nm),緑色(544nm),青色(437nm)で,  それぞれの輝度をIOOcd/mに調整した。また,刺激の形状は,直径4度の円形,持続時間0.2秒で出力して,得  られた縮瞳率を分析した。刺激部位は,視野中心から耳上側45度方向の偏心度0, 5, 10, 15, 20度とし,各2  回の反応を平均して評価した。
  結果 各偏心度における平均縮瞳率(%)は,偏心度0度で白13.8,赤13.8,緑15.6,青20.4,偏心度5度で白  10.8,赤10.1,縁12.0,青17.6,偏心度10度で白9.1,赤7.7,緑11.4,青15.9,偏心度15度で白80・0,赤7.0,緑9.6,  青15.2,偏JL、度20度で白8.8,赤6.0,縁8.6,吉14.2であり,青色刺激の反応は各偏心度において,他の色刺激の  それよりも有意に大きかった(p<0.01)。
  考察 対光反射は,青色刺激に対して大きな反応を示し,それ以外の色刺激では明らかな差がなかった。色刺激  を用いることで,対光反射の特異反応を分離摘出することができれば,新たな臨床応用の可能性が期待される。
  結論 青色刺激を用いた対光反射は,他の色刺激よりも大きな反応を示した。
melanopsinに関連した事象であろうか。発展を期待したい。

[学会展示] 両眼電子瞳孔計


相対的瞳孔求心路障害 (RAPD) の測定は視覚機能の客観的評価の出来る数少ない検査法 の一つであるが、肉眼的な検査は難しく、判定に迷うことが屡々起こる。電子瞳孔計を用いることにより、 その精度が飛躍的に良くなることが知られている (Variability of the Relative Afferent Pupillary Defect. AKI KAWASAKI, M.D., PAULA MOORE,AND RANDY H. KARDON M.D. Ameri J Ophthalmology 1995:120:622-633)。
今回、学会に 展示された電子瞳孔計はゴーグルタイプでLEDによる光刺激で、両眼の瞳孔の反応を波形、数値で 示す。両眼への刺激光量は自由に変えられるので、日常臨床でRAPDを容易に定量的に測定が 出来る。
  刺激光は赤、緑、青の3波長を選択出来るので、対光反応の色特性関連の研究にも使えるであろう。

( ニューオプト(株) Tel 044-932-2848   info@newopto.co.jp  
ニューオプト(株)  )


日本臨床眼科学会(2007 10)京都
プラツクライトにより網膜障害を生じたー例
  尾花明・平野達・郷渡有子・西村香澄・竹内郁子・阿部由理子

 [緒言]レ-ザ-光障害は赤外パルスレ-ザ-で多く、可祝光レ-ザ-はまれである。レ-ザ-ポインタ普及時に事故報告が相次いだが、多くは   心因性反応に留まり器質的障害例はない。今回、発光ダイオ-ド玩具で不可逆性網膜障害を生じた例を報告し、 -般への注意を喚起したい。
 [症例] 15歳男子中学生。右限にブラツクライト(商品名シ-クレットペン、中国製)照射を2回受けた。照射は眼前約1cmの距離から瞳孔に垂直   に数十秒間行われ、その間、息者は光源を凝視した。約2週後に右視力低下を自覚し、 2ケ月後の初診時視力は右(0.4)、左1.2で、右中心暗点とグ   レア値低下を認めた。右黄斑部にー乳頭径大の黄色病巣を認め、 OCTで色素上皮増殖と網膜ひ菲薄化がみられた。他局所ERGで中心部綱膜機能低   下を認めた。プレドニゾロン20mg漸減療法によりー旦視力0.9となったが、その後0.6となり右黄斑部の萎縮を残した。
 [考察]本品は附属の特殊インクで書いた文字に光を当てると字が読める玩具で、我々の計測では最大波長が405nm、出力は5mWであった。網膜   上照射径が病巣サイズにー致すると仮定すると綱膜面上強度は52.1mW/cm2、角膜面上強皮は470mJ/cm2と推定された。これらは過去の   実験報告やANSI基準から熱凝固を生じうる強度である。本品はJIS規格クラス3A相当と思わ玩具として販売されている現状に間題があると   考えた。
  日本での最初のLEDによる眼障害例。世界でもはじめてと思われる。    黄斑部に境界鮮明な黄色円形の変化あり。   授業中発生らしい。 いじめ? 口演では 光化学反応にも言及。
日本眼光学学会(2007 09)旭川
シンポジュウム 眼光学の最先端
デジタルオフサルモスコープ 大島  進 株式会社ニデック
今回報告する検眼鏡は光源に固体半導体レ-ザ-を採用し, 4色の波長を選択して撮影することが 可能である。  眼内への入射エネルギ-を低く保てるため動画掘影も静止画撮影も可能である。
Microperimetry 石子智士 旭川医科大学 眼科
 。最近,眼底を観察しながら網膜感度の測定を行う検査である新しいMicroperimetry (MP-1)が市販され,操作の簡易性で欧米を中心に普及してきている。,これまで我々が明らかにしてきた黄斑疾患患者の視機能の特徴についてまとめ,新しいMicroperimetryの応用と限界,そして次世代のMicroperimetryへの希望について話したい。
 フルフイールドOCT  TOPCON Advanced Biomedical lmaging Laboratory   秋葉 正博
 フルフイ-ルドOCT (FF-OCT)は,サンプルに対して光を2次元で照明し, サンプルからの反射光をCCDカメラなどの2次元検出器で並列に検出する断層 イメ-ジング法である。光ビ-ムの走査なしに水平方向の断層画面を"撮像"  その後,更なる技術開発を精力的に進め, 1-2 umの高い空間分解能を維持 しながら、ビデオレ-ト(30フレ-ム/秒)撮像可能な新しい検出原理を考案 した。試作した実験装置により,生体内の細胞構造をin vivoで映し出したばか りでなく,検証実験としてオタマジャクシの血管内を流れる個々の血球の可視 化にも成功した。また,マウス角膜,水晶体のin vivo断層画像計測も行い,本 装置が眼科診断に対して有効であることを実証した。。  本講演では,ビデオレ-トで紳胞レベルの描出が可能になった新しいFF- ocTを紹介し,本装置を用いて測定した細胞ダイナミクスの断層画像化結果を 報告する。次に,眼組織の断層画像化結果例を示し,近末来の眼科診療におけ る展望を述べる。
補償光学 井上  卓 浜松ホトニクス株式会社 中央研究所
 補償光学は,収差を動的に除去して理想に近い結像状態を作り出す技術であ る。光学系の理想状態からのズレ(波面収差)を波面センサ-で計測し,その ズレを波面制御素子で補正することにより,収差を除去する。  人眼は,工学的に見るとすばらしい調整能力と掘像性能を有しているが,光 学的性能は決して高いとはいえず,近視・乱視等の大きな収差を有している。 人眼が理想的な光学系であれば面内分解能が2-4 〃 m程度の眼底撮像が実現 できるが,収差が存在するために,通常の描像では分解能が5〃mから十数〃 mに低下している。  補償光学を眼底掘像に適用することによって,視細胞や神経繊維,微細血管 のm vivo観察が可能になり,眼疾病や循環器系疾病等の早期診断や,生理光学 の研究に大きく寄与するものと期待されている。また,光凝固等に補償光学を 適用することによって,非観血的治療への応用も期待されている。そのため, この数年盛んに研究され,多数のグル-プが良好な高分解能眼底像の取得に成 功している。しかしながら,開発された装置は研究用途レベルにとどまってい る。産業化を妨げている最大の要因は波面制御素子であるが,現在精力的に開 発がなされている。  このような補償光学眼底撮像の,波面制御素子を中心とする技術的側面と, 各種の応用事例を紹介する。
紹介されたのは世界最高性能の補償光学素子であり、今年中に市販予定と のこと。期待される。
 Functional Retinography(FRG)
角田 和繁  東京医療センター感覚器センタ-
  
 演者は,網膜電図(ERG)とはまったく異なるしくみで網膜の神経活動を非 侵襲的にイメ-ジングする方法を開発し,新たな眼科診断機器としての実用化 に向けた研究を行っている(網膜内因性信号計測法, Functional Retinography: FRG),これは,神経活動にともなう代謝変化等を神経組織の光反射率変化と して捉える計測法であり,近赤外光で眼底後極部をモニタ-したうえで,フラ ッシュ刺激後のevoked responseをマッピングするという非常に単純なもので ある(Tsunodaetal. 101巧2004)。動物眼を用いたこれまでの研究により,視柵 胞など網膜外層の活動,および神経節紳胞など網膜内層の活動を分離してマッ ピングすることが可能であり,また,その反応閥値は暗順応下のERG-b波と同 等であることが分かってる(Hanazono et al. IOVS2007)c 高い空間分解能を持 つ本計測法は,様々な網膜疾息の診断のための新たな機能的イメ-ジング法と して注目されている。
網膜の神経活動を客観的に知る新しい技術であり、今後が期待される。

日本小児眼科,斜視弱視学会(2007 06)名古屋
 進行性内斜視の稀な一例
   大庭正裕他 札幌医大眼科
【緒言】強度近視に伴う固定内斜視の発生機序として横 山らは眼球の筋円錐外への脱臼を指摘し、新たな術式を 提唱している。今回我々は眼球脱臼を自分で-時的に戻 せる進行性内斜視の稀な-例を経験し、手術後良好な結 果を得たので動画を供覧しながら報告する。
【症例】 60歳女性、 7年前から次第に左内斜視が進行し、 当科紹介受診。矯正視力は右1.2、左は強度近視による 弱視で0.01。眼位は極度の内下転位でこの状態が5年間 続いていたという。眼球運動は全方向に制限されている が、こするように眼球を押すと、正面眼位や外転制限は ある程度改善する(脱臼の解除)。
しかし、 一旦内転さ せると眼球は再び内下転位に固定され、眼球運動制限を 呈する。術前のMRI所見では眼球脱臼を認めた。症例 はここ2年間、眼球を押して脱臼を解除し、眼球運動訓 練を毎朝夕おこなっていたという。手術は左眼の内直筋 後転術、上直筋と外直筋の筋幅縫合術を施行した。術後 眼球運動制限は著明に改菩し、正面眼位もほぼ正位とな った。
【結論】強度近視による進行性内斜視では症例によって は眼球脱臼の解除が-時的に可能な時期があること、ま たそのとき眼球運動訓練を行ったことが術後の良好な結 果を招いた可能性があることなどを示唆した。

日本眼科学会(2007 04)大阪
バセドウ病眼症の治療戦略 眼形成的視点から
安積 淳(神戸大、隈病院)
【目的】バセドウ病眼症による眼部の変形、特に眼瞼後退//眼瞼腫脹、に対する治療の試みを紹介すること。 対象および方法:隈病院および神戸大学病院で診察/加療してきたバセドウ病眼症患者に対する治療成果を総括する。
【結果】 MRIやCTなどの画像所見上、 「炎症性腫脹から線維化/脂肪変性(増生)」という,バセドウ病眼症の外直筋にみられる-連の過程は、眼瞼部にもみられる。炎症の活動性が高いときに、副腎皮質ステロイド剤(トリアムシノロンアセトニドの局所投与を含む)や放射線を用いて、十分な消炎が図られると、眼瞼腫脹や眼瞼後退が改善する場合がある。炎症が強かったり,十分な消炎が図れない場合、バセドウ病限症の最終過程として起こる筋周囲組織の硬化や脂肪組織の増生は、限瞼部では、限瞼後退や限瞼腫脹の後遺症化を引き起す。この場合、ミュラ-筋切除や眼瞼部眼剛旨肪除去といった外科的除去が有効な場合がある。また、下斜筋付近にもバセドウ病眼症に特有の炎症が発生し、下限瞼牽引靭帯等の下限瞼組織を巻き込んで、内反症や下眼瞼腫脹の原因となると推測される。
【結論】バセドウ病眼症による眼瞼部の変形に対して、従来,外直筋に対して行ってきた, 「活動期の消炎と癒痕期の外科的治療」という治療方針をあてはめることができる。各々の詳細については、さらに検討/改良の余地がある。

精緻なMRI画像で病態を知る事により、より的確な治療法を 選択する事ができ、極めて難しいバセドウ病眼症の眼形成が好成績裡に 行なはれることが示されただけでなく、眼瞼部の病態にも新知見が得ら れており、今後の治療法の進歩が期待される。


IEC/TC76 国際レーザー安全基準委員会(2006) 主催 光技術振興協会 平成18年12月11-15日 長ア 県医師会館


主催する筈であった国が急に不都合となり、急遽、光技術振興協会が引き受けることと なり開催日も固定されていましたが、会場を 原爆跡そば、浦上の県医師会館に、美しく暖かい長アを観光、 出島でのBanquet,などなど、、、手際よい光協会の設定にて実り多い会議になりました。医用レーザの WGでは非レーザ光源製品をどのように取り扱うのか、とりまとめにしばらく時間が必要です。




第16回国際神経眼科学会 会長若倉雅登 平成18年11月29日-12月2日東京 増上寺
600名を越す内外の神経眼科関連の方々が一堂に集まり、エイサイテイングな発表、 討論があり気持ちのいい学会でした。 そのごく一部ではありますが紹介します。(Neuro-Ophthalmol 30, No.6 ,2006)。 増上寺境内に一台配置 された人力車がきわめて好評、車夫さん とうとう顎を出し しばし休憩でした。

Poster Session

Tetracycline delays the decline in ocular motility in chronic progressive external ophthalmoplegia (CPEO): An 8-year analysis
Lenworth N. Johnson, MD , Ayman Omar, MD, PhDI
Neuro-Ophthal , Mason Eye lnstitute, Univ Missouri-Columbia, Columbia, MO, USA

Background To describe the effect of tetracycline therapy in chronic progressive external ophthalmoplegia (CPEO). Case lnterventional case report. Tetracycline 500 mg daily was administered to a 47-year-old woman with progressive decline in ocular motility from CPEO. Observations Ocular motihty improved over the pre-tetracychne baseline. Tetracycline also delayed the decline in ocular motility during the four years of follow-up. Conclusion Tetracycline was well tolerated over the duration of therapy. Tetracychne was effective in delaying progression of extraocular muscle weakness in CPEO.
グラフ縦軸は眼球の可動範囲、横軸は経過年数。4年間の観察中、可動範囲は 狭くなってきたが、Tetracyclineの開始一年間で初診時より改善し、その後は狭くなってきたが、 それでも現在は初診時程度をたもっている。☆▽◇ひどい手ブレ写真ですが、何とか判読してください。 ◇▽☆

Selective saccadic palsy following cardiac surgery
Scott D.Z. Eggers1, Mark L. Moster2
' Department of Neurology, Mayo Clinic College of Medicine, Rochester, MN, USA; 2Division of Neuro-ophthalmology, Albert Einstein Medical Center, Philadelphia, PA, USA

Background Supranuclear gaze palsies are a rarely reported complication of cardiac surgery.
Cases Through the use ofvideo eye movement recordings, we present a series ofcases ofcomplete isolated saccadic palsy developing acutely after aortic valve or root surgery.
Observations Each patient awoke from surgery with persistent loss of all saccades, including vestibular and optokinetic quick phases ofnystagmus. Extraocular range, gaze holding, smooth pursuit, vestibulo-ocular reflex, and convergence were preserved. Gait ataxia and seizures were variably present. Ischemic-appearing lesions were seen on MRI in the dorsomedial pons or subcortical white matter in two patients, and mesial temporal signal changes were seen in a third.
Conclusions The cause of selective saccadic palsy following cardiac surgery is unclear. We review the literature of this syndrome and discuss the pathophysiological theories behind it.
展示された症例では、水平、垂直方向ともにsaccadeは完全に麻痺、smooth pursutは完全に保存。画像では病変は片側性で ごく小さい。 成因を説明出来ない。

Symposium

Role of melanopsin-containing retinal ganglion cells and the pretectal olivary nucleus in the pupillary light reflex Paul D. Gamlin Department of Vision Sciences, University of Alabama at Birmingham, Birmingham, AL, USA
Purpose To characterize the responses ofpupillomotor neurons within the pretectal olivary nucleus (PON), and to determine the influence of intrinsically-photoreceptive retinal ganglion cells on the primate pupillary light reflex.
Methods We used extracellular, electrophysiological techniques to investigate the behavior of pretectal pupillomotor neurons. To investigate the role ofmelanopsin-containing retinal ganglion cells, we recorded pupillary responses in rhesus monkeys under normal conditions and during pharmacological blockade of ON and OFF retinal channels.
Results PON neurons code for retinal irradiance, and possess large receptive fields which can be grouped into three classes: contralateral, bilateral, and macular. During complete pharmacological blockade ofrods and cones, light-evoked pupillary responses are only moderately reduced in amplitude. Spectral responsivity data derived from these responses correspond to the melanopsin action spectrum, and the kinetics of these responses closely match those of the light-evoked intrinsic responses of melanopsin-containing retinal ganglion cells.
Conclusions All three classes ofPON neurons contribute significantly to the behaviorally observed pupillomotor field char- acteristics. In primates, intrinsic phototransduction in melanopsin-containing retinal ganglion cells contributes significantly to light-evoked pupillary responses over much of the photopic range.

Localization of visual input pathology using the pupil light reflex
Randy H. Kardon, MD, PhD\ Aki Kawasaki, MD2
1 Department of Ophthalmology and Visual Sciences,University of Iowa Hospital and Clinics & Veterans Administration, Iowa City, Iowa USA; 2 Medicin Associe, Hopital Ophtalmique Jules Gonin, University of Lausanne, Lausanne, Switzerland
Objective To localize the site of damage in the visual pathway using the pupil light reflex. Background New information about the neurons mediating the pupil light reflex and their projections to the brain may provide a basis for localizing the site of damage. Method Subjects with visual field loss localized to either the photoreceptor layer of the retina, optic nerve, optic tract, midbrain pretectum, or post-geniculate pathway were evaluated by recording the pupil light reflex to various types of visual stimuli.
Results Pupil waveform shape, duration, and correlation to visual field location were useful in localizing the site of damage. Normal eyes showed more sustained pupil response to blue light compared to luminance-matched red stimuli. Outer retinal disease showed reduced transient pupil responses, but intact sustained pupil contraction to blue stimuli. Optic nerve disease reduced both transient and sustained pupil contractions. Pupil responses in lesions ofthe optic tract, midbrain or postgeniculate locations could be differentiated by size and intensity of light.
Conclusion Photoreceptor input to the melanopsin ganglion cell is primarily transient in nature, but intrinsic light activation of the melanopsin ganglion cell contributes a sustained pupil contraction, especially to blue light. Knowledge of response properties and projections of neurons mediating the pupil light reflex should facilitate localization of damage.
瞳孔の対光反射には網膜の視細胞だけではなくmelanopsin ganglion cell も関与している。視細胞に比べ 短波長の強い光に反応し、サッカディアンリズムに関連するとされ、電子瞳孔計による瞳孔反射の検索は網膜の病態生理の 構築にとどまらず、自律神経系の解析にも役立ち、重要性が増してくるでしょう。

Childhood myasthenia gravis in Japan
Y. Nomura, K. Hachimori, Y. Nagao, M. Segawa, K. Kimura, M. Segawa
Segawa Neurological Clinic for Children, Tokyo, Japan

Objective The ages at onset ofmyasthenia gravis (MG) in Japan show two modal patterns, the highest under 3 years of age followed by common adult peak. Clinical characteristics, treatments and long term prognosis ofthe childhood MG are presented.
Method We have been experienced 226 childhood onset (younger than 18 year-old) MG cases. Clinical types included ocular, latent general (clinically ocular, but electrophysiologically general) and general. Treatment consisted with anti- cholinesterases, steroid, thymetomy and/or tacrolimus.
Results Clinical types showed general 30%, latent general 50% and ocular 20%. Sex ratio showed female predominance (70 %) and half ofthem had onset before 3 year-old. Acetylcholine receptor antibody (AChR Ab) are negative or low in most cases, but some cases with minimum ocular symptoms as sequelae begin to show elevation ofAChR Ab at around 20 years of age. Anti-MuSK antibody estimated in 16 cases was negative. 60% of cases responded to steroid and less than 10% of cases needed thymectomy. Steroid showed best effects when started within 3 years from onset. Onset older than 1 1 years and general type often needed thymectomy. Tacrolimus was used in 10 cases with good results. HLA of these childhood onset cases, particularly those with onset before 3 years, showed the characteristic class II antibody, i.e. heterozygous combination of DR 9/13 and DQ 6/9.
Conclusion Childhood onset MG in Japan is associated with specific HLA antibody. Clinical features are milder than adult onset cases, and ocular involvements are the main feature. Long term prognosis is generally good, but early intervention by steroid or thymectomy is essential for the complete remission. Tacrolimus is safely used to switch from steroid. The pathophysiology is basically similar to adult onset. The immunological mechanism during development may play roles in the characteristics of childhood onset MG.
小児のMGが日本に多いことは昭和50年頃の全国調査ですでに 分かっていたが、長い間不明であったその原因が判明した。またこの群の予後も長期の 経過観察より明確となリ,臨床的に意義深い発表であった.図は当時の東大眼科MG 外来での発症年齢別症例数。(小児の重症筋無力症、小澤 哲磨、眼科22:819-824,1980)


第48回日本産業労働交通眼科学会平成18年11月18日東京 慈恵医大

 長期的経過を追えたYAGレ-ザーによる網膜傷害の1例 昭和大眼科 春山知子,井口俊太郎,植田俊彦,小出良平
 24歳男性、 H12年7月、大学の研究室にてレ-ザ-調整中、感光紙をいれる光沢ある包装紙に反射し 右眼が暴露された。光は波長1064nm、出力30mJ/pulse、10pulse/secであった。黄斑部に長径216〃m 面積o.o4mmの点状白斑を認めた。右の矯正視力は1.2.
受傷後6年後, H18年2月来院時、 黄斑部の点状白斑は褐色斑となり残存していた OCTでは異常を認めなかった。アムスラ-チャ-ト では中心部に直径2度、正方形のゆがみ-と変化していた。右の矯正視力は0.8と低下していた。 創傷治癒過程により、網膜に変性が生じた可能性が考えられる。
受傷後視力低下がなくても悪化 することがあるため長期的な観察が必要である。

 両眼視線計測による対話タスクの運転者への影響評価 植田俊彦,内田信行、浅野陽-、飯星 明    昭和大眼科 日本自動車研究所 日本自動車工業会
 運転中ハンズフリ-電話での対話が両眼視線のズレに対しておよぼす影響は、 "意識  の脇見"によると考えられることを前回報告した。これは、対話タスク中に生じる脳の視覚情  報処理機能の活動低下が関与していると予想される。そこで今回は, functional Magnetic  Resonance lmaging (fMRI)による視覚野の活動を調べた 各被検者でともに-次視覚野付近では、実験フェ-ズでは脳活動が低下していたが、  特に追唱、暗算と比べてイメ-ジ想起で著明に脳活動が低下した。
   2名の被検者ではあるが、運転中ハンズフリ-電話での対話を模擬した設定に  おいて、意識の脇見が発生している時には、視覚情報処理を担う部分の活動が低下していた。   前回報告したように、イメ-ジ想起タスク時に両眼視線のズレが生じていたことと併せて考 えると、両眼視線を-致させるには、視覚情報付近の脳活動が重要であると推測された
運転中携帯電話の使用時、視覚情報処理関連の中枢の活動が大きく阻害される報告の続編。
(文献 交通事故関連参照)

   二色型色覚の色弁別特性を模擬する機能性分光フイルタ中内茂樹(豊橋技術科学大) 宮津佳苗,小田博文(伊藤光学工業)篠森敬三(高知工大)
本研究では,色覚異常者の色識別の不便さを 色覚正常者が直感的・体験的に理解するためのツ-ルとして,二色型色覚の色弁別特性を模擬する 機能性分光フイルタを開発した(図).   フイルタの分光透過特性は,色覚異常者の色の区別しやすさ,しにくさを再現するように設計 した.具体的には,色覚正常者がフイルタを装着してある色群を見た場合と,色覚異常者が同じ 色群を見た場合それぞれについて,全ての色の組み合わせに対する色差を計算し,これら色差マ トリックスの類似度を表す評価量を最大化するよう最適化計算によりフイルタの分光透過特性 を求めた.得られた分光透過特性をもとに,真空蒸着薄膜によりフイルタを光学的に実現した.  
 作成されたフイルタ評価のため,色覚正常者がフイルタを装着した状態で総合石原色盲検査表 を用いた特性検査を行った結果,被験者159名の約 90%が典型的な赤緑色覚異常の様相を示した.その他 パネルD15テスト,色弁別楕円計測等によっても, 本フイルタによって良好に二色型色覚の特性を模擬 できることを確認した.

正常色覚者が色覚異常者の色感覚を正確に体験することは大変難しい。このような方法も 一法であろうが、慎重な配慮の元に使用する必要があろう。
日本臨床眼科学会(2006) 平成18年10月京都

石原色覚検査表の改訂に向けて岡島 修(三楽病院)、中村かおる(女子医大)
   色覚異常の検出表として内外から高い評価を受けている石原色覚検査表は、数字表と曲線表から成っている。曲線表は数字の読めない人向けとされているが、実際にはほとんど使用されず、判定の評価対象にもなっていない。一方、1980年に発刊された新色覚異常検査表(新大熊表)は石原・大熊表と呼ばれた旧版の改良型で、ランドルト環形式のため、幼児にも使用可能である。
今回我々は、三楽病院眼科・東京女子医大眼科・東京大学保健センターを受診した色覚異常者のうち、石原色覚検査表国際版38表の第1〜第21表で誤読数10以下であった75名を対象にして、石原表・新大熊表の検査成績を検討した。
 石原表では正常色覚と判定される誤読数4以下を含め、多くの被検者が新大熊表を何表か誤読した。新大熊表自体の検出成績も良好で、石原表の曲線表の代わりに新大熊表を用いれば、検出能力のさらなる向上につながると期待される。

ブルーライトハザードと最新の眼科手術
 1 ブルーライトフィルター眼内レンズ:患者さんの見え方、術者の見え方
  大路正人(滋賀医大)
 2 黄斑疾患に対する白内障硝子体同時手術におけるブルーライトフィルター眼内レンズの使用
  白神史雄(香川大)
 3 The rationale & Effect of bIue light filtering IOLs on RPE cells
  Stanley Chang(EdwardS.Harkness Eye Institute)
短波長光ほど生物学的活性が強く、網膜に障害を与える。水晶体には400nm近くの 青色光を吸収するが、従来の眼内レンスは400nmより長波長光は100% 近く透過してしまう。青色光吸収眼内レンズは人水晶体の光波長による吸収率に近似し、 網膜保護の観点からは優れているが、薄く黄色に着色しているので、 視覚機能の低下や眼底検査が難しくなるのではないかとの危惧があった。
 三氏の発表では:青色光吸収眼内レンズ挿入者へのアンケート調査にては 、見にくい、暗い、黄色く見えるなどの負の症状は無く、有意差があったのは眩しくないという正 の症状のみであった。青色光吸収眼内レンズ挿入眼でのさまざまの硝子体手術がされたが、 いずれの場合にも、術中、眼底の観察は従来通り可能で何の支障もなかったとのことである。
  下記、ME学会での植田俊彦氏の青色光吸収眼内レンズ挿入眼の長期観察症例でも 有利さが認められており、青色光吸収眼内レンズが、今後、主流となるのではなかろうか。


 日本眼光学学会・眼科ME学会合同総会 平成18年9月 東京 (主催慈恵医大)

シンポジウム  OCT診断と新しいOCT技術
1 フ-リエドメインOCT方式と眼底・前眼診断
   安野 嘉晃 (Computational Optics Group in University of Tsukuba
2 スウェプトソースOCT
   大林 康二 (北里大学-般教育部(兼)大学院医療系研究科)
3 フルフイ-ルドOCTによる高分解能断層撮像
   陳  建培(山形県産業技術振興機構

最先端技術による眼底、前眼部の素晴らし画像が三氏により表示され、今後の眼科疾患病態学進歩が予感され感銘を与えた。臨床応用が大谷倫裕、飯田知弘、板谷正紀の三氏より発表された。

青色光吸収眼内レンズの網膜光障害抑制効果
  植田 俊彦、他 昭和大学医学部眼科
  青色光吸収眼内レンズ(Y群)と、紫外線吸収眼内レンズ(UV群)を比較し、術後黄斑浮腫に およぼす影響を検討する。  昭和大学倫理委員会の承認を得て、前向きにランダム平行群間比較試験(50例)を行った。白内 障手術は同-術者で行い、術前、術中には合併症はなかった。術3か月と12か月における蛍光眼 底撮影(FA)をおこない黄斑部の漏出を調べた。
 症例数は、脱落症例を除き、 Y群22眼、 UV群24眼であった。 視力は全例1.0以上で、患者の自覚は良好であった。 FAによる黄斑部からの漏出症例数は
            3M   12M
 Y  群(22)     5    1 
 UV 群(24)     6    5
であった。  従来より、白内障の術後6週をピ-クにプロスタグランディンによって嚢胞様黄斑浮腫(CME)  が生じ、しだいに自然回復すると考えられている。 臨床的にはほとんど症状がない。しかし、視力が 1.0以上あっても、もしFAを行えば、 20-30%において幾光漏出(angiographic CME)が存在し ていると推測される。今回、漏出症例は術後3か月で、両群に差はなかったが、 12か月後では、 Y  群では回復する傾向があった。
 光障害は、青色光が最も網膜傷害が起きやすい。 Y群では、日常環 境中の光から青色光を吸収して、白内障術後の黄斑部の漏出回復を促していると考えられる。  自内障術後3か月には、 20-30%において黄斑部から蛍光漏出する。またY群は、黄斑部の蛍光 漏出の回復を妨げない。

学会展示
ヴィデオカメラによる眼球運動測定器
 繰り返し周波数が250Hzとsaccadeも十分い記録可能な高速の ヴィデオカメラにより 眼球運動を撮影記録し,瞳孔およびPurklnje像の動きから眼球運動を解析する。
装置は顎台の前にハーフミラーを置き、上方からカメラと照明光を入れる。

発売元は ナモト貿易(株)
 〒272-0804 千葉県市川市南大野1- 44- 1
     TEL 047-338-3224 FAX 047-338-3236
           e-mail mid@namoto.com
          http//www.namoto.com


第43回 日本神経眼科学会 平成17年11月11-12日 別符
初日は大雨、2日目は快晴、最近は研修関連の演題ばかりが目立つ学会が多いのだが、本会は通常の演題のみで、熱心な討論が終日続けられました。

サツケードを抑制する前頭眼野について
 伊澤 佳子、鈴木 寿夫、篠田 義一 東京医歯大 医学部 システム神経生理
 サッケ-ドの発現には前頭眼野が重要であると考えられている。一方、滑動性眼球運動の発現には後頭頭 頂野が関与すると考えられていた。しかしながら、最近滑動性眼球運動や輻輳性眼球運動に前頭眼野が重 要であることが示された。
このように現時点では、前頭眼野は、サッケ-ドだけでなく種々の眼球運動発 現に重要な役割を果たしていると考えられている。それとは逆に、前頭眼野の一部が破壊されると、視野 内に目立つ対象物が出現すると固視が出来なくなり、其れに向かう反射的サッケ-ドを抑えることが出来 ないことが知られている。
この前頭眼野に於ける眼球運動の抑制機構は、興味のある物体を固視する時に 働くことが考えられる。最近我々は、微小電気刺激を行うとサルの起こすサッケ-ドを抑制する部位が前 頭眼野の限局した部位に存在することを明らかにした。このサッケ-ドに対する抑制には、少なくとも2  種類存在することが解った。
 記憶誘導性サッケードと視覚誘導性サッケ-ドを訓練したサルにおいて、前頭眼野を電気刺激すると、刺 激側に向かうサッケ-ドのみが抑制される部位(同側サッケ-ドの抑制)と、両側いずれに向かうサッケ -ドも発現が抑制される部位(両側サッケ-ドの抑制)が存在した。この2種類の抑制の性質について解 析したのでその特徴について述べたい。
さらにこの抑制部位にある細胞の発火パターンを調べると、固視 に際して持続的発火を示す細胞が多数見られた。それ故、この抑制機構は、固視の神経機構と密接に関係 していることが示唆された。眼球運動の発動機構は、発動の抑制からの解除と見なすことが出来る。それ 故、眼球運動の発動の機構の研究と眼球運動の抑制機構の研究は表裏をなしており、それぞれの機構の解 明にとって相互の研究が有用であると考えられる。

レーベル病患者の最低視力と最終視力との関連
 莫島 行彦他 慶応大 眼科
 【目的】レーベル病は主に若年男性に好発し1年以内に視神経萎縮を来たし、中心暗点のため多くの患者では視力は0.1以下になる。しかしながら、発症1年後より0.2以上に視力回復する症例もあり、今回は発症後最低視力と最終視力との関連を検討した。
【対象】対象は慶應義塾大学病院眼科および鴨下眼科クリニックを1年以上通院したレーベル病患者の内、ミトコンドリアDNAの11778変異を持つ56名(112眼) である。男性51名、女性5名で、発症時年齢は9歳から65歳で、平均23.6歳であった。全員発症後の最低視力は0.1未満であった。治療は、希望により承諾後ビタミン剤(ビタミンB2、 C)、イデベノンまたは CoQ10、レスキュラ点眼を行った。
【結果】最終視力が0.2以上であったのは17眼(15%)であった。最終視力が0.2以上の群の最低視力は0.1以下の群の最低視力に比べ、有意差がみられた(P<0.0001)経過中最低視力0.08は7眼あり、 5眼(71%:が最終視力0.2以上であった。薬物治療は3眼で行われていた。同様に、最低視力0.07では4眼中3眼(75%)、 0.06では2眼中1眼(50%)が最終視力0.2以上であった。薬物治療はそれぞれ、 4眼、 1眼で行われていた。 一方、最低視力が手動弁以下では、 20眼中19眼(95%) が最終視力0.01以下であった。最低視力が0.01では、 27眼中25眼(93%)が最終視力0.05以下であった。
【考察】レーベル病発症後最低視力がその後の視力予後に関連することが考えられた。最低視力が0.07- 0.08の症例は11眼中8眼(73%)が0.2以上に回復していた。 11眼中7眼は上記薬物治療が行われていたが、視力改善は自然改善の可能性も高いので、効果は不明である.一方、最低視力が0.01以下の症例では視力改善は殆ど望めない。これらの違いは、急性期における視神経障害の程度に依存することが考えられる。
【結論】経過中最低視力が0.07-0.08の発症眼は0.2以上に回復する可能性が高い。

 経角膜電気刺激治療を施行した外傷性視神経症の視力経過
 森本  壮、不二門 尚  大阪大学 眼科
目的)外傷性視神経症(TON)は、網膜神経節細胞(RGC)の軸索損傷により、 RGCが変性し、視力や視野が障害される。
この疾患に対して、 RGCを標的とした神経保護治療は確立されていない。
我々は、ラットの視神経障害モデルに、経角膜電気刺激(TES) を行うと、 RGCの細胞死が抑制されることを見出した。さらに、大阪大学医学部倫理委員会の承認を経て、 TES治療をTON患者に対して行い、視力や視野が改善することを見出した。
今回、これまでに治療したTON症例の視力経過について検討したので報告する。
対象と方法) TON患者 5例5眼(男性5例)を対象とした。年齢は、 14歳から71歳、治療前の視力は、手動弁から0.2、発症から治療までの期間は、 3週間から11ケ月であった。 
方法は、治療眼に対し、点眼麻酔下でコンタクトレンズ電極を装着し、 TES治療(20Hz、 500から800μA、 10ms/phase)を1回30分間、 2から3ケ月毎に行った。 治療前と治療開始1ケ月後から9ケ月後までの視力を測定し、視力をIogMAR視力に変換し治療前の視力との差が0.3以上を改善または悪化とした。
結果)治療1ケ月後で、 2例の視力が改善し、さらに、 3カ月後では、視力改善が3例に増え、さらに6カ月後では、全例の視力が改善し、 9カ月後も視力の改善は維持されていた。経過期間中に悪化した症例はなかった。また、視力改善の時期と治療前の視力との関連はなかった。
結論)治療前の視力に関係なく、TES治療の開始から6カ月後までに、全例で視力が改善した。 TES治療は、 TON症例に対する治療として試してみる価値があると考えられた。

 Sjogren症候群に強膜炎と視神経炎を併発した1例
安部ひろみ 他 大分大 眼科
 (緒言】近年、視神経炎の中にはSLEやSjogren症候群などの勝原病に併発し、その発症に自己免疫機序が関与する自己免疫性視神経症が存在することがわかってきた。一方、強膜炎は慢性関節リウマチなどの基礎疾患に伴うものが多いがSjogren症候群に合併することでは稀である。今回、我々は強膜炎の精査、治療中に視神経炎を併発し、 Sjogren症候群を背景とした自己免疫機序の関与が考えられた1症例を経験したので報告する。
症例】 62歳女性。左眼の充血、眼験腫脹、視力低下があり、近医より精査冒的で紹介され、当科を受診した。初診時視力右(1.5)、左(0.05)。左前眼部に強膜充血、前房内炎症細胞、軽度の前嚢下白内障が見られ、眼底には強い硝子体混濁と全周にわたる梁液性網膜剥離、脈絡膜剥離を認めた。エコー及びMRIで後部強膜の肥厚が確認され、後部強膜炎と診断した。全身精査にて抗核抗体と抗SS-A抗体が高値を示しSjogren症候群と診断された。
【経過】プレドニゾロン60mg内服投与を開始し、眼所見、視力ともに改善傾向にあったが、治療開始10日目に左眼に中心暗点が出現、フリッカー値も低下した。視神経炎の併発と考え、ステロイドパルス療法を2クール施行、以後漸減中である。視力、視野、フリッカー値ともに徐々に改善しており、投薬継続にて経過観察中である。
【結語】 Sjogren 症候群に強膜炎を発症したという報告は過去に数例しかなく、きわめて稀な症例と思われる。今回の視神経炎は強膜炎からの炎症の波及なのか、あるいは自己免疫性視神経症が別個に発症したのかは不明であるが、ともに基礎疾患に伴う免疫異常が関与しているであろうことが推測された。
Superior segmental optic disc hypoplasiaの長期経過
林 恵子他 東京大学 眼科
目的】 Superior segmental optic disc hypoplasia (SSOH)は、上方優位の視神経低形成および下方視野欠損を有する疾患である。視野障害は通常非進行牲とされているが、長期経過に関する詳細な報告はない。
今回我々は、当院にて10年以上経過観察し得たSSOH4例7眼を経験し、その臨床的特徴を検討したので報告する。
【対象と方法】対象は、当院にてSSOHと診断された4例7眼。仝例女性、初診時年齢20-39歳、経過観察期間10-21年である。仝例に-2.5D--7.5Dの近視を認めたが、矯正視力は1.2以上と良好であった。 SSOHの診断は原則的に、 1) relative superior entrance of the centra! retinal artery、 2) a superior parapapillary scleral halo、 3) pallor of the superior portion of the optic disc、 4 ) thinning of the superior parapapillary retinal nerve fiber layerなどの視神経乳頭所見を示し、それに-一致した視野障害を認めるものとした。眼底・視野・視力の検査結果を中心に診療録をretrospectiveに調査した。 【結果】全例において矯正視力は初診時から最終経過観察時の間で不変であった。 7例中6例では経過観察期間中に視野検査結果の明らかな変化を認めなかったが、残りの1例では、マ盲点から耳下側に広がる視野障害は不変であったが固視点上方領域で経時的な閾値低下を認め、乳頭所見も併せSSOHに加え開放隅角緑内障の合併も疑われた。
【結論】 SSOH4例7眼中6眼において、 10年以上という長期経過の検討でも視野障害の進行を認めず、 SSOHによる視野障害は停止性であることが示唆された。一方で、緑内障の合併による視野障害の進行が疑われた症例も1例含まれていた。

上斜筋に眼窩した眼窩筋炎の1例 
中村由美子他 兵庫医大 眼科
 目的)眼窩筋炎と甲状腺眼症の鑑別に苦慮する症例が存在するが,上斜筋単独に炎症を認める場合は稀である.今回, MRIで左眼上斜筋に筋肥大と炎症を認め,左内上転障害を認めた症例を経験したので報告する
.症例)症例は39才女性,主訴は右上方視での複視であった. 今年に入ってから複視(正面視ではなし)と左眼の眼球運動時痛(右上方視時のみ)を自覚し,近医を受診. MRIで上斜筋の肥大と炎症所見を指摘され当科紹介受診となった. MRIでは下直筋,涙腺にも軽い炎症を認めた.初診時視力は両眼矯正1.0,前眼部・中間透光体・眼底には著変を認めず,眼位は正面視で正位であった.眼球運動では左眼内上転障害を認め,眼球牽引試験は陽性であり, Hertel眼球突出度計では右13mm,左15mmであった. lid retraction,lid lagは本人は以前と比較して自覚していたが他覚的所見としては明らかではなかった.  甲状腺関連自己抗体,また他の自己抗体, CRPを含む炎症所見等は全て陰性であった.甲状腺眼症,眼窩筋炎の鑑別はつかないままステロイドパルス療法を3クール施行した.眼球運動時痛はステロイドパルス後すぐに消失した.ステロイド治療後のMRIでは左上斜筋の炎症は軽減していたが右眼と比較すると肥大・炎症が残存していたため,プレドニゾロン30mgからゆっくり漸減した.しかし, 左内上転障害の改善は認めなかった.
考案)一般に甲状腺眼症での筋肥大はMRl上コカコーラボトル様で筋腹の肥大, 眼窩筋炎では筋付着部からの肥大といわれるが,上斜筋の場合MRI上での鑑別は難しい.眼窩筋炎の中には拘縮型の眼球運動制限を認める場合があることから,さらに経過観察を要すると考えた.

 


平成17年10月7-10日 札幌
日本臨床眼科学会(2005)
眼窩壁骨折にどう対処すればよいのか?

中村泰久(聖隷浜松病院)、荒木美治(京都府医大)、八子恵子(福島県医大)
 眼窩壁骨折の病態は様々である。そして患者の多くは受傷直後に眼科医を訪れる。 従って、眼科医は自己の専門領域の如何を問わず、眼窩壁骨折に対する対処の仕方を理解しておく必要があり、そのためにこのコースが計画された。
眼部の外傷で訪れ、複視を訴える患者に対しては先ず眼窩壁骨折を疑う。眼瞼の腫脹が強い場合複視を自覚しないことがあるが、注意深く開瞼して複視の有無を確認することが大切である。
眼窩壁骨折の症状症候の中で、頭痛、嘔気、嘔吐などはもっとも危険なものであるにもかかわらず、眼窩壁骨折と結び付けられないことがある。このような患者は、激しい疼痛を伴う強い眼球運動制限を示す。
眼窩壁骨折は閉鎖型骨折と開放型骨折に分けられ、閉鎖型の骨折では眼窩内組織が絞扼され、開放型の骨折では眼窩内組織が嵌頓する。上記症状症候を示す患者は閉鎖型筋絞扼型骨折が疑われるため、画像検査で確認した上で緊急手術を行わなければならない。手術の時期を失うと循環障害による筋の壊死をきたし、再起不能となる。
その他の型の骨折でも、絞扼され嵌頓した組織は時とともに癒着、瘢痕化といった変化をきたすため、早期に手術をする必要がある。
眼窩壁骨折の手術は、皮膚切開から眼窩縁を介して骨折部に到達する。骨折緑の全周を視認し、眼窩内組織を整復し眼窩骨膜と骨壁を再建する。
副鼻腔を介して行う術式では、組織の整復保護が十分に行えず不幸な転帰をとる症例が多い。

ハンズフリー電話による会話が注視点におよぽす影響
  植田俊彦(昭和大)、内田信行、浅野博一((財)日本自動車研究所)、  飯星 明((社)日本自動車工業会)
  【目的】運転中ハンズフリー電話での対話が左右眼の注視点のずれにおよぼす影響を調べた。 
 【方法】裸眼視力0.7以上と軽度を屈折異常以外に眼科的異常のない被検者14名を対象とした。運転シミュレーターで先行車を追従させ、ブレーキランプを模擬した赤色発光ダイオードに対する反応時間とアイマークレコーダにより両眼の注視点を計測した。
シミュレーター運転中に行う対話タスク条件として暗算タスク、経路案内タスクと,これらの比較対象となる発声タスク(コントロール)の3条件を設定した.
各実験終了後に質問紙によって各タスクでの精神的負担(メンタ   ルワークロード)を調べた。なお,一部の被験者で60分遮蔽後のプリズムカバーテスト(PCT)で眼位を測定した。 
【結果】暗算タスクでは、注視点のずれは発声タスクと有意差はなかったが, 対話タスクでは有意な注視点ずれの増大が認められた。また.
PCTでの遠見斜視角と各被験者の注視点ずれがほぼ-致した。反応時間は発声タスクに比べて暗算と対話タスクで同程度に遅延した。対話タスクでのメンタルワークロ-ドは発声タスクと同程度の軽度負担であった。 
【結論】対話タスクでは精神的負担力て少ないにもかかわらず反応時間の遅延と注  視点ずれが発生していたことより、視対象を固視しているとは考えにくく、対話  に没頭した強い"意識の脇見"状態と考えられた。
PCTより注視点のずれは安  静眼位と一致している可能性が示唆された。


第46回日本産業・労働・交通眼科学会
平成16年12月11日(土)東京渋谷
Nd-YAGレーザーとフェムト秒レーザーによる網膜傷害OCTで経過のおえた2症例     昭和大学眼科 吉村正美 植田俊彦 真木剛浩 小澤哲磨 稲富 誠 小出良平
  【症例1】34才 男性  平成14年7月、研究目的でNd−YAGレーザーの光軸を調整中に、誤って右眼で見てしまった。  レーザーは50mJ、直径は0.3mmであった。保護眼鏡は装用していなかった。 
 主訴:視野の真ん中が白く濁る    視力  Vd=0.5(n.c) vs=1.5(n.c)  前眼部:異常なし  中間透光体:異常なし 
 眼底所見:中心溝に周囲に浮腫ともなった出血を認劇た。  治療:ステロイド(リン酸ベタメサゾン)12mgから漸減投与  経過:受傷4日後に、OCT(opticalcoherence tomography)で中心窩に出血とその周囲に網  膜浮腫を確認した。8日後には出血・浮腫は軽減し、網膜色素上皮細胞上には網膜構造は確  認できなかった。16日後では網膜浮腫は消退し、中心窟上に細胞塊が出現した。円孔縁に  fluid cuffが確認でき、眼底所見でも放射状に皺壁が生じ、2ヶ月後には明らかな黄斑上膜  がOCTでも眼底所見でも確認された。 
 【症例2】25才 男性、  平成15年12月、研究目的でフェムト秒レーザーの光軸を調整中に、その散乱光を左眼で  見てしまった。レーザーは1kWで30−100fs、直径1mmであった。  主訴:黒い点が見える 視力  Vd=1.2(1.2) Vs=1.0(n.c)
 前眼部:異常なし  中間透光体:異常なし 眼底所見:黄斑部に点状白斑を認め浮腫はなかった。  
治療:ステロイド(リン酸ベタメサゾン)3mgから漸減投与  経過:初診時からOCT所見では浮腫はなく、白斑部に一致して中心窟全層に高反射を認める  ものの、網膜の層構造は保たれているようだった。FAGではwindowdefectを呈した。受傷1   日目にはVS=1・2(n.c)、眼底写真では中心喬に白斑を認めるものの、浮腫・円孔はなかった。  38日目に白斑はうすくなり、OCTでも高反射部は軽減していた、自覚症状の暗点は消失して  いた。 
 【考察】これまで、黄斑部のレーザー傷害を詳細にOCTで追えた報告はない。その傷害の経  過をOCTで観察することは、有効な手段であると考えられる。レーザーによる網膜傷害はい  ずれも黄斑部に起きている。また、実験室において研究者が起こすことが多い。保護眼鏡装  用の必要性を理解しているものの、いずれも被爆時には装用していなかった。1064nmのYAG   レーザーは可視できないために、管理・機器.環境の観点からも改善が必要であると考える。

第42回日本神経眼科学会総会抄録抜粋

  平成16年10月15日−16日 名古屋国際会議場 会長 藤田保健衛生大学 神経内科 山本 \子教授

幻視の人物像に加齢を認めたCharles Bonnet症候群の一例
 中村 尚子、山本 \子 他 (藤田保健衛生大学神経内科)
【目的】 Charles Bonnet症候群は視力障害を背景にし幻視を中心とする症候である。われわれは幻視の人物像に
 も加齢現象が見られた特異な症例を経験したので報告する。
【症例報告】患者は発症時59歳で現在は74歳の女性である。視野中心部の幻覚を訴え精査入院した。既往.家族  歴に特記事項なし。夫を亡くし.一人暮らしで,犬と散歩し、認知内省力 は保たれ、習い事もする。 一般理学所見には異常無く.神経学的には 視力障害以外には下肢の軽微な自覚的しびれのみ。高度近視により視力障害2級  の認定1994年.眼科初診時0.01(0.03×-16.00) 0.01 (0.04×-16.00). 網脈絡膜萎縮.白内障の診断。  1995年9月  両白内障の手術を受け、 10月0.05 (0.05)、 0.04 (0.06)と改善。 2001年10月には0.02,0.06(n.c.)であった。中心視野に常に人の顔がみえ.一旦消え てまた現れる。患者自身は幻覚であると承知し妄想はない。表情.向きは変わり時々口が 動くが働きかけはない。顔の部分は向こうには何も見えない。 経過中.顔が次第に大きくなり昔は童の能面のようであったが現在は年をとり髪の生え 際が後退し髪が減った。患者の描画を図に示す。
【考察】 15年におよび幻覚の内容に変化はないが人物が老化したという点で興味深く.患者の老化が幻覚に表象 されたと考えられる。
 
 神経血管減圧術が有効であった上斜筋ミオキミアの2例
花井香織、宝金清博 他 (札幌医大 眼科, 脳神経外科)
症例l :49才.男性。脳幹部の薄スライスMRIではFIESTA法および造影SPGR法において.左滑車神経根部に上小脳動脈の枝が接している所見が見られ.左滑車神経への血管圧迫が疑われた。患者の強い希望もあり、血管減圧術が施行された。術中所見では.左滑車神経根出口部において上小脳動脈の分枝が左滑車神経を圧迫しており.圧迫された滑車神経の一部は蒼白であった。上小脳動脈の分枝の圧迫を解除し、滑車神経と血管の間にteflonを留置した。術後.軽度の左滑車神経麻痺が出現したが.動揺視は消失し. 3ヶ月後には左滑車神経麻痺も消失した。
症例2 :67才.男性。以前より動揺視があり.左上斜筋ミオキミアの診断がなされた。 脳幹部薄スライスMRIでは、上述の特殊撮影によって迂回槽を血管と共に走行する左滑車神経は確認できたが、明らかな血管圧迫は確認できなかった。内服治療では効果がなく.患者の希望により血管減圧術が施行された。術中所見では.左滑車神経根部に細い動脈枝が引っかかった形で滑車神経を圧迫していた。 術後.動揺視は消失した。(Video供覧)
:内服治療に抵抗性の上斜筋ミオキミアに対し.神経血管減圧術も治療法のひとつとして考慮すべきである。

脳幹橋部延髄背側部に先天性欠損溝を認めた水平注視麻痺の-症例
藤代 貴志、相原 一 他 (東京厚生年金病院 東大 眼科)
【症例】 26歳女性。出生時よりの水平方向注視麻痺。体重は40kg.身長は130cm.既往歴に先天性の側湾症の治療を受けた以外.特記すべきことはなし。生後は側湾症による低身長が存在していたが成長.発達に問題はなく初潮年齢は12歳であった。家族歴に特記すべきことはなし。眼科的精査を希望し来院。
 第一眼位は正位.垂直方向注視.輻湊には異常を認めなかったが.完全水平方向注視麻痺を認めた。動眼神経.
 滑車神経.三叉神経.顔面神経.前庭神経異常を示唆する所見はなかった。メビウス症候群を疑わせる所見は認
 めなかった。視力矯正右眼l.0.左眼0.9.前眼部、中間透光体、眼底に異常所見は特になかった。 MRIを施行し.
 橋部から延髄にかけての背側部に先天性の欠損溝を認め.外転神経核に相当する部位の脳幹橋中部背側隆起が消失していた。両側外直筋は存在していたが軽度に萎縮をしている所見があった。大脳.小脳に異常所見はなかっ
る。(後略))
 
有機ヒ素化合物中毒患者の眼球運動所見
中馬越清隆、.石井 弘 他 (龍ヶ崎済生会病院、.筑波大学 神経内科)
2 00 3年3月.茨城県の神栖(かみす)町で飲用井戸水の水質検査によりヒ素が水質基準の約4 5 0倍という高濃度で検出された。このヒ素は有機ヒ素であるジフェニルアルシン化合物であり.旧日本軍の化学兵器(噛吐性ガスなど)の成分に由来すると考えられる。(中略) この水質汚染発見の契機となった筑波大学神経内科入院患者の臨床症状について眼球運動障害を中心に報告する。
生活用水としていた井戸水の有機ヒ素汚染が証明された住宅に住む3 8才女性。 1 4才娘および同汚染水を使用した他の住宅住人の3人にも類似症状を認めた。他院へ入退院をくり返し.入院の度に症状は改善し退院後悪化するといったエピソードを繰り返していた 2 0 0 2年8月当科に入院となったが.四肢体幹の小脳失調,四肢のミオクローヌスを中核症状とした。その他注意力低下.記銘力障害.不眠なども認めた。入院時、歩行時の動揺視が著明であり,独立歩行は不能であった。入院中は原因を特定するに至らなかったが.入院約1週間後より明らかな症状改善を認め.退院後数週間で症状の悪化を認めた。入院による汚染井戸水使用中止により症状が改善し.帰宅後再使用により症状が再燃したと考えられた。
眼球運動を電気眼振図計を用いてACおよびDC記録した。律動性眼球運動では特に上方視でupbeat nystagmusを認めた。滑動性および視運動性眼球運動の障害も認めた.水平半規管刺激(0℃)での温度眼振は,明らかな反応低下は認めなかった。
垂直方向のgaze-evoked nystagmusにより動揺視が出現したと考えられ.有機ヒ素化合物(ジフェニルア
 ルシン化合物)により小脳および脳幹の眼位保持機構が可逆性に障害される可能性が示された。
 
眼科でみる身体表現性障害.軽症うつ病への対応
若倉 雅登.石郷岡 純(井上眼科病院.東京女子医科大学精神科)
【目的】眼科的に器質的異常がないのに、眼部痺痛や違和感を訴える症例がある。これらは. 「神経症」 「自律神 経失調症」 「更年期障害」などの診断名で.不当に扱われ嫌われてきた。しかし.軽症うつ病や米国精神医学会診断マニュアル「精神疾患の診断と統計の手引き」 (DSM)による「身体表現性障害」と扱うことで.合理的診断.治療が可能になることを呈示する。
【方法】井上眼科病院神経眼科外来において.眼科的異常はないのに.眼部の頑固で持続的な痺痛や違和感を訴 えた症例を集め.その特徴、治療効果を検討した。
【結果】上記に相当するのは15例(男女比7: 8. 19-71歳.平均47歳)であった。持続的痛みを訴えたのは6例, 他に蓋明.圧迫感、異物感.重い感じ.つれる感じなど訴えは多彩で.心気症的訴えも2例あった。心療内科か 精神科通院中は3例あり.目に関する訴えは眼科へ行くように言われ不満を有していた。訴えは頑固かつ持続的で.退職を余儀なくされた2例など社会生活に影響を与えていた。抑うつ尺度測定のスクリーニングテストCES-Dを行った5例中4例で20点以上を示し.うつ病またはうつ状態にある例が含まれていた。 12例に対し選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)の1つマレイン酸フルボキサミン(デプロメール) 25mgを1日1-3錠の内服を試みたところ. 8例で著効し.退職した2例では求職活動を始めた。 1例は副作用(ふらつき)のため中止. 1例は無効で精神科に紹介した。残り2例は効果判定保留で投与継続中。
【考察】目に関する頑固な愁訴に対しうつ病または身体表現性障害と捉えSSRIによる治療を試みたところ.一定
 の効果が得られた。このことは.従来精神疾患において目の愁訴は少ないとされ.精神科学的アプローチがなさ
 れていなかったために.精神疾患が見逃されてきた可能性を示す。
【結論】目の不定愁訴を解決する選択肢に.うつ病および身体表現性障害を入れる必要がある。

 


 
 臨床眼科学会総会2004 nov11-14東京国際ホーラム 神経眼科関連

レーベル病における瞳孔視野の検討
 林 恵子(東芝病院)、藤江和貴、若倉雅登(井上眼科病院)他  
【目的】レーべル病の瞳孔視野とハンフリー視野から視機能の障害パターンを検討する。 
【対象と方法】 1778変異陽性レーベル病患者8例16眼(男:女6:2、平均年齢32.3歳)に対し 瞳孔視野(以下P視野)を測定し、同心円状3領域(C;cen-  ter、[1] ; 1st ring、[2] ;2nd ring)、更に[1]、[2]をN;nasaL T;temporal  に分けた計5領域について正常対象群と比較した。 P視野計は赤外線瞳孔計(C  3160, Hamamatsu Photonics, Hamamatsu, Japan)をVERISシステム(EDI,  SanMateo, CA)にリンクさせたもので、刺激は同心円状に配列された19個の 六角形により中心20度の範囲に与えられた。上記8例のうち4例8眼にハン フリー30-2視野(以下HF視野)を測定し、上記5領域に対応する範囲の平均 闇値とP視野を比較した。
 【結果】 1 P視野振幅の対象群平均値からの低下率はC65%>T [1] 52%>N  [2] 31%>T [2] 29%>N [1] 6%で領域Cの障害が最も強かった。(2) HF  闇値とP視野の振幅変化(= {振幅実測値}ー(対象群平均値} )に有意な相関は 無かったが、周辺領域ではHF閾値不良でも瞳孔反応は保たれる傾向にあった。 
【結論】レーベル病ではHF視野よリP視野の障害範囲が狭く、瞳孔反応が比較的 保たれることが示唆された。

道路情報板における色彩情報のユニパーサルデザイン  
中村かおる(女子医大).岡島 修(三楽病院)、西尾佳晃、北原健二(東京慈恵医大).  尾登誠一(束京芸大)、松下之意、軍記伸一(日本道路公団)
 【目的】色彩情報として用いられる色は.正常色覚者の利便性と色覚異常書の視認  性を兼ね備えたユニバーサルカラーが望まれる。特に.色自体に対する意味づけ  が慣習として定着している場合には,社会的な混乱を招かない範囲で色覚異常者  の利益を考えなければならない。
  今回我々は,日本道路公団が設苛する道路情報板の使用色.特に多くの先天色  覚異常者に不評であった赤色LEDについて.今後使用する波長域を決定するた  めの実験を行った。
 【方法】対象は第1色盲5人.第2色盲6人および正常色覚10人である 590-  640nmの6種類の波長のLED発光色を用い.各々16cmx16cmの無彩色背  景上に15cmx 13cmの数字「3」を表示した LED輝度は昼間環境で3400cd/  m2.および夜間環境で40cd/m2,距離は20mとし,正常色覚者には赤として認  識できる程度を.色覚異常者には視認しやすい程度を1 〜6点評価で応答させた。  
【結果】先天色覚異常看では.昼間.夜間ともに現行の640nmでは非常に判読し  にくく, 620nm前後でもっとも視認性が高かった。一方.正常色覚着では波長が  長くなるに従い「赤らしさ」が高まった。両者の評価点を折れ線グラフに表した  交点は昼間環境では624nm.夜間環境では627nmと推定された。  
【結論】新設される道路情報板の赤色LEDは625nm前後が望ましい。道路交通  など.安全性が重視される公共表示には.正常色覚者と色覚異常者双方の利害の  調和が不可欠である。

小児角膜疾患と遺伝子異常
東 範行(国立成育医療センター)
 遺伝疾患の原因として.一般にジストロフィでは組織特有の構造蛋白や酵素の遺伝子異常であることが多い。角膜では.穎粒状、格子状. Avellino ジストロフィでkerato-epithelin漣伝子. Meesmannジストロフィで keratin-12遭伝子、膠様滴状ジストロフィでMISl連伝子の変異が見つかっている。
 これに対し、先天異常では転写因子など形態形成に関わるi員伝子の変異が原因となる。 PAX6は眼形成のmaster control遺伝子と考えられ.その変異で先天無虹彩やPeters奇形が起こる。先天無虹彩は角膜から視神経にいたる全眼球異常であるが. PAX6の変異をもつ前眼部形成不全も眼底異常などを合併することが多い PAX6の下流にある遺伝子の変異では、疾患表現が限局的である。 Eyes absent (EYA) familyは、 EYAlが眼球前半に. EYA2が後半に発現するが、先天白内障や前眼部形成異常でEYA1 の変異が見つかっている PITXfamilyは. Rieger症候群と虹彩低形成で PITX2の.先天白内障と前眼部異形成でPlTX3の変異が見出され、前眼部形成を行っていると考えられる。
 このように転写因子漣伝子群のネットワークが器官を形成するので.その解明は先天異常疾患の原因解明に通ずる。水晶体ではL-Mafのような固有の形成遺伝子があるが.角膜固有の形態形成遺伝子はまだ見つかっていない。

後眼部疾患に伴う角膜混濁
尾崎弘明(福岡大)
小児特に新生児の後眼部疾患において角膜混濁を生じるものには様々なものがある。その中でも.未熟児網膜症では病状の進行に伴い、 stage Vに移行すると剥離網膜の圧迫により水晶体が角膜側におされ.虹彩後癒着をきたし.前房が消失して角膜混濁を生じる。この場合.多くは牛眼の状態になったり、眼球療に移行し手術適応外となる。また.第一次硝子体過形成遭残ではしばしば白内障を合併し、水晶体の前方移動に伴い夢前房をきたし、角膜混濁にいたる。
 このような小児の後眼部疾患において角膜障害を防ぐためにはできラる限り速やかでかつ適切な対処が必要となり.実際に角膜混濁が生じた後では手術の難易度は極めて高く.治療に苦膚する症例がほとんどである。
 本講演では未熟児網膜症、第一次硝子体過形成i員残、家族性/滲出性硝子体網膜症などの症例を呈示しながら、後眼部疾患において角膜混濁にいたる機序と管理の問題点及び対策について検討してみたい。 


第108回日本眼科学会総会報告

平成16年4月15日(木)〜18日(日)

筋の切腱と分割を要しない上下直筋全幅移動術
西田保裕.林 理.柿木雅志.小田早苗.岩見達也.可児ー孝(滋賀医大)

目的:我々は高度の外転神経麻痺の眼位矯正に、上.下直筋を分割し、その耳側筋腹を切腱しないで外直筋に移動させ、強膜に固定する稲富法を用いてきた。その後、移動筋の手術侵襲を更に軽減させるため、筋の分割を不要にした上下直筋全幅移動術を考案し、その術後成績について述べる。方法:外ひきで眼位が正中を超えない外転神経麻痺3例に本術式を施行した。本術式の手順は輪部および放射状の結膜切開とテノン嚢を剥離した後、上下直筋の全幅を露出し、筋付着部から8-1Omm後方の耳側縁に6-0プロリン糸を通糸する。 同糸を、水平から約45度の上・下耳側の角膜輪部から10-12mm後方の強膜に通糸する。そして、上・下直筋を強膜通糸部位に移動させ結紮・固定する。内直筋の拘縮が強い場合は同筋の後転術も併施した。結果:術後の眼位矯正効果は、内直筋の後転術を併施した例では約50プリズムジオブタ(PD)、併施しなかった例では24PDで、稲富法や他の筋移動術に比較してもほぼ同様の眼位矯正効果が得られた。また、術後の前眼部虚血や第1眼位での上下偏位、回旋偏位も認められなかった。考察:本術式の利点は、他の術式で行われる切腱と筋の分割が不要なことである。このことは、術後の前眼部虚血の可能性を更に軽減させることができる。特に、水平筋の手術を行い、すでに2直筋の切腱を行った例の安全な追加手術としての利点を有する。また、術後の筋と強膜間の癒痕癒着も軽減できると考えられる。結論:上下直筋全幅移動術は低い手術侵襲で、他の筋移動術と同程度の効果が期待できる手術法と考える。

滑車神経麻痺の治療と予後
三村 治.木村亜紀子.井上貴美子(兵庫医大)

目的:滑車神経麻痺患者をみたとき、診療のEBMのデータとなるべき多数例の治療と予後を報告する。対象:兵庫医科大学病院眼科にて経過を追うことのできた滑車神経麻痺患者206例。検討項目:原因、保存的治療における複視消失時期。観血的治療における手術法と予後。再発率。結果:原因別では先天性25例.外傷性62例.血管障害74例(内糖尿病を有するもの22例)、感染によるもの7例、その他および原因不明が38例であった。複視消失時期は最短は糖尿病を有するもので発症後13日で、最長は9ヶ月、平均2.8ヶ月であった。手術は先天性では25例全例に施行され、下斜筋後転術(前方移動術を含む)が13例に、上直筋後転術が15例に、上斜筋前部前転術が4例に、下直筋の水平移動術が2例に施行されていた(重複あり)。全例頭位異常は改善した。後天性では85例で手術が行われ、初回手術として上斜筋前部前転術を主とする回旋矯正術が44例で、下直筋鼻側水平移動術が28例で、上直筋耳側水平移動術が6例で、その他の手術が7例行われていた。術後(複数回の手術を含む)正面視で複視が消失したものは78例(92%)であり、 5例ではプリズム眼鏡処方が必要であり、残る2例では複視が残存した。 また前眼部虚血が1例でみられた。さらに長期経過で術後7年、 8年、 9年で各1例複視が再出場し、再手術を要した。考案および結論:滑車神経麻痺は保存的療法で改善するものは平均2.8ヶ月,最長9ヶ月で複視が消失する。 9ヶ月を経て複視が残存するものでは手術を行うことにより90%以上の症例で複視を消失することができる。

抗結核薬により引き起こされた視神経症例の検討
藤原裕丈.松尾俊彦.大月 洋(岡山大) 岡田千春(国立南岡山)

〔目的〕抗結核剤投与により引き起こされた視神経症の臨床像を検討する。 〔対象と方法〕平成12年〜平成15年の間に国立南岡山病院眼科を受診した抗結核剤投与患者225例(男174例、女51例、平均年齢66±17歳)を対象に、抗結核剤投与により視機能障害が生じた10例(男5例、女5例、平均年齢71±10歳)について、視機能障害が発症するまでの抗結核剤の投与期間・量、障害の程度、障害が回復するまでの期間、回復の程度、眼科的合併症を後ろ向きに検討した。視機能障害の発症は、視力低下・色覚障害の自覚症状の生じた時期、中心フリッカー値の低下した時期を発症時期とした。 〔結果〕視機能障害は4ー4%に認めた。原因薬剤はINH 1例、 EB 5例、 INH and/or EB 4例であり、眼科的疾患は白内障10例、加齢黄斑変性症2例であった。結核再発例は3例であった。視機能障害が発症した時点での抗結核剤の投与はINH+RFP+EB 9例. INH+RFP 1例であり、平均投与期間は85±53カ月(レンジ11-147カ月)、平均投与量(レンジ)はINH300-400mg/日、 7.14-9.76mg/kg/日、RFP78.8-450mg/日、 1・61-13.4mg/kg/日、 EB500-1000mg/日、13.0-23.Omg/kg/日であった。視機能の回復は6例(75%)に認め られ、 lNHあるいはEBが原因と判明した症例であり、回復しなかった2例はINH and/or EBの症例であった。 〔結論〕抗結核剤の少量投与でも視神経症は起こりうる。早期に薬剤を中止すれば視機能は回復するが、多剤併用されるため視機能障害を生じる薬剤を特定しにくく、このことが薬剤の中止時期を遅らせ、視機能の回復の障害になる。



                      

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