身延離山までの熟慮
原殿御返事
身延沢を罷り出で候事、面目なさ本意なさ申し尽し難く候へども、打ち還し案じ候へばいづくにても聖人の御義を相継ぎ進せて世に立て候はん事こそ詮にて候へ、さりともと思ひ奉るに御弟子悉く師敵対せられ候ぬ、日興一人本師の正義を存じて本懐を遂げ奉り候べき仁に相当りて覚え候へば本意忘るること無く候。
又君達は何れも正義を御存知候へば悦び入り候、殊更御渡り候へば入道殿不宜に落ちはてさせ給ひ候はじと覚え候。
(身延の沢を出て行かなくてはならないことで面目の無さ本意の無さ、申し上げ尽くせないことではありますが、よくよく考えてみれば、何処にあろうとも、大聖人の御教義を正しく継いで、世に弘めて行く事こそが大事です。さりとて、考えてみれば他の本弟子達は悉く師敵対してしまいました。ただ、日興一人、師匠の正義を抱いて本懐を遂げなくてはならない一人であると自覚していますので、本意を忘れる事はございません。
また、あなた達はいずれも正しい信心を御存じですので嬉しいことです。(あなた達が)度々積極的に訪問いたせば入道殿(実長)も、悪い状態にまで落ち込むこともないと思います。)
- 原殿(南部家の一族の者。一説には嫡男・清長という説もある。)に与えられたお手紙。身延離山の際の日興上人の無念さが伺える数少ない史料である。
Notes: