秋の台湾東南部の調査から

日本からのマーク虫の到着地として可能性の高い台湾東北部は1994年12月2-6日の調査で手ごたえは感じたものの，時期として遅かったと思い，昨年（1998年）は11月5-13日，東海岸の南部を探ってみました。場所は台東近くの知本温泉，新豊-武陵，中部の静浦で，結果はアサギマダラはゼロ匹。「この年はアサギマダラの南下個体が少なく，仕方がない。ついていなかった」と自らを慰めた次第ですが・・・。他のマダラ類は次のごとしです。


１）Tirumala 属のウスコモンマダラ，コモンマダラは普通に見られたが，吸蜜個体のみで，産卵行動は全くなかった。
　　＜ということは，越冬準備中の成虫ということか？＞

２）Parantica 属のヒメ（コモン）アサギマダラは普通で，ホウライカモメズルに卵，幼虫がいた。タイワンアサギマダラ１♀がよたよた平地に下りてきていた。採卵をする前に老衰で（？）死亡。
　　＜同じようなマダラチョウ類といっても，生活はそれぞれ違うな！＞

３）Radena 属のリュウキュウアサギマダラは最普通で，ホウライカモメズルに産卵し，幼虫も多かった。この食草はツルモウリンカに酷似し，無毛のものはブラオンカズラと呼ばれる。

４） Euploea属はホリシャルリマダラ（マサキルリマダラ）のみで，ネジレギ（クワ科：多分新記録の食樹）に卵，幼虫が多かった。
　　＜この属も一筋縄ではいかないらしい？＞

春の台湾東北部の調査から

日本列島への出発地としての可能性が高いとみて，1994年6月4-8日に中上喜史氏と北部を調べたことがありました。これも時期が遅すぎたと，本年（1999年）は3月10-17日に出かけました。
場所は台北市の陽明山，大屯山，北東部の鼻頭角岬，東部の礁渓，山地の碧湖など。アサギマダラは北上に備えて低地海岸の岬などに集まって来る頃だと・・・No! です。低山地で数回見たのみ。連日悪天候だったことを割り引いてもこれは予想大外れ。日本列島の秋の南下個体同様，低地に下りてから飛び立つと想像していたのは裏切られました。
「なんだ，北上個体は山地から直接飛来するのか？　日本の夏山での習性と同じではないか！」が感想。
ところが・・・（後記）

　　*なお，上記の秋，春の調査の同行者は愚妻のみ．誰かぜひご一緒しましょう！（福田晴夫）

種子島：

尾形之善氏によると，アサギマダラ成虫は，１月27日（西之表市，１頭；初見），３月15日（中種子町，１頭），３月17日（西之表市，１頭）に目撃・採集。




薩摩半島南端部：

長崎鼻，開聞岳など４月７には羽化個体および飛来個体らしいもの出現。
　　*春の個体はマーキングも大事ですが，標本を残して形態のチェックをしましょう。

○朱耀沂先生 Yau-I Chu（台湾大学）：

達者な日本語でかねてから数々のご助言，ご指導を頂いている方で，日本でもおなじみ。この春には二晩もお付き合い頂き，次のお二人に引きあわせて頂いた。この方のお力なくしては，下記のような調査の進展はなかったであろう。その後のお便りによると，標記「台湾地区アサギマダラ，マーキング連絡センター」が，陳建志さんらによって設置されるらしく，その檄文原稿もチェックずみであるという。


○徐土育峰先生 Yu-Feng Hsu（台湾師範大学）：

活発な調査活動をされていることは日本でも周知のこと。その先生のうれしく有り難い談話。
「鼻頭角岬には先日行ったが，やはりアサギマダラはいなかった。春は平地にはいない。ただし，太平洋側のある場所（地名は一応伏せておく）にアサギマダラだけしかいないところがあり，ここは集団越冬地ではないかと思う。」
「秋にまた来て下さい。報道関係者にも連絡するから，大々的にマーキング作戦をやりましょう。」
他にも台湾の蝶類についての，新しくて面白い話が多かった。


○陳建志さん Jen-Jyu Chen（台北市立動物園の副研究員）：

中華胡蝶保育学会の理事長。最後の一日，マイカーで大屯山一帯を案内していただいた。大屯山国立公園一帯で標高別に年間を通してのアサギマダラの消長を胡蝶保育学会の仲間と調査中である。昨年秋から始めてまだ途中だというノートには，卵，各齢幼虫などの克明な記録が集積されつつあった。タイワンキジョランも見せてもらう。
「夏にはおびただしい数になるから，その頃来て下さい。ぜひマーキング会を開きましょう。ここは採集禁止ですが，ちゃんと手続きをとってやりましょう。」
胡蝶保育学会は会員数200名で，毎週のように自然観察会（初心者向け）と調査会をやっている由。マーキング用のペンと記録用紙を進呈してきた。
なお，本紙46号（台湾の人たちへの手紙）は50号の英文版をもとに，即座に中国語に翻訳してもらったので，近く本紙の特集号としてお届けする。


感想：
以上のように，台湾の蝶を台湾の人たちが，地道に確かな調査を継続されていることに感銘を受けた。これまでは日本人の調査成果だけに目を向けがちだった不明を恥ずかしく思う。台湾は山岳と森林の豊かな国で数々の名蝶が生息しており，それらの調査も重要であるが，平地の人里の蝶たちの調査もそれに劣らず興味深く大事である。


新しい疑問：
（１）もしアサギマダラの集団越冬地が台湾にあるとすれば・・・彼らはどこでいつ羽化したものか？　私の調査で他の近隣地域で見られなかったこともこれに符合するのか？　日本にそこからやって来るのか？　ことによったら前年の南下個体が再び北上することもあるのではないか？　もし，近くにウスコモンマダラの越冬集団があれば，彼らもそこから飛来するのか？
　　*松香宏隆氏によると，ウスコモンマダラを主とした集団越冬地も東側にもあるらしい。

（２）一方，アサギマダラは台湾では数百〜千メートルあたりの山地帯のチョウで，山から山へ日常的に移動生活をしていて，春から初夏にはその一部が北上するのかも知れない。南西諸島から九州本島の越冬アサギマダラもそれに加わる形になっているらしい？　それならタイワンアサギマダラが混入するはずである？　机上での想像も楽しく大事であるが，フィールドでの調査でしか答えは出ない。（福田晴夫）

あとがき：

１年２ヶ月ぶりに発刊します。昨年のマーキング調査の成果は，大阪自然史博物館友の会会誌「Nature Study」45(1)にまとめてありますが，本紙でも特集として出すべく，藤井恒さんにお願いしてあります。どうかよろしく。
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本紙：　発行不定期、会費不要、投稿・情報歓迎。本紙の入手希望者は、封筒に80円切手を貼り、自分のアドレスを記入して送っておくこと。

　このページは、「アサギマダラ大移動研究会」発行のアサギマダラ・ニュースの内容を、インターネット版として掲載したものです。ただし、プライバシー保護のため、投稿者（情報提供者）の住所等は省略表示してあります。
　このページは「アサギマダラ大移動研究会」の福田晴夫さんの全面的なご協力によって、作成したものです。この場を借りて、お礼申し上げます。

　アサギマダラの移動に興味をもたれた方は、是非、マーキング調査に御参加下さい。簡単なやり方を覚えれば、誰でも参加できます。マーキングの仕方は、ここを見てね。

インターネット版「アサギマダラ・ニュース」を見る

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