作 山下泰昌
ほとんど僕らが住んでいるこの世界と同じような世界。高校生は僕らと同じように無意味な受験をして入学し、退屈な授業を受けて、惰性のように学校に通う毎日。だが、一つだけ違う点があるとすれば、この世界の高校にはどこにも《幻闘部》という部活があるということだけ。
ファンタジウム。
日本語で《幻闘技》と訳されるそれは、特定のフィールド上で五人対五人に分かれ、魔法や剣技を駆使して闘われる総合団体格闘技である。
―――かってこの世界に魔物や怪物どもが跳梁跋扈していた時代、魔法や剣を武器にしてそれらを退治していた人間たちがいた。
しかし、時は過ぎ、世界から有害な魔物どもは調伏され、怪物たちは駆逐された。
世界には魔法と科学を基盤とした文明が栄え、人跡未踏の地も消え失せた。そして用が無くなった《冒険家》たちも次第にその数を減らし、その魔法の術や剣の技も潰えた――
―――かのように見えた。
これを見事に絶滅の危機から救ったスポーツ競技がある。
それがファンタジウムだ。
イングランドの魔法科学者、マクドゥエル=ファンタズマが考案した《Fスーツ》を利用したそれは、瞬く間に全世界に普及した。
《Fスーツ》は着用すると、身体の表面に特殊な《場》を形成し、魔法攻撃や物理攻撃を五十分の一に軽減し、またダメージを数値化することが出来る。比較的、安価に製造できるこのスーツのおかげにより、先進国はもとより、発展途上国でもファンタジウムは爆発的に広まることになった。
また、四年に一度世界最強国を決める、最高にして最大の大会、《ワールドカップ》も開かれることになり、その熱狂は加速した。